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ツアー|朝4時出航、シラウオ漁にワクワク【前編】

朝4時、霞ケ浦の東岸・行方市にある各漁港に船が真っ暗な湖面を照らしながら帰ってきます。シラウオ漁を終えた漁船です。漁獲されたばかりのシラウオを船から下ろし、ふたたび湖へと戻っていきます。

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毎朝2回、網をひくシラウオ漁の2回目に、東京から来たシェフ4人と一緒に乗り込んだのは、11月半ばのことでした。

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(左から篠原さん、白鳥さん、山本さん、吉原さん)

霞ケ浦アドベンチャーツアー」と題した産地訪問に参加したのは、浅草橋の昆虫食でも知られる「ANTCICADA」の篠原祐太さんとシェフの白鳥翔大さん、表参道「Sincere BLUE」の料理長、吉原誠人さん、「IL TEATRINO DA SALONE」の料理人、山本一貴さんの4人。料理業界で注目の20代の若者たちです。

2021年10月に開催した「シェフと茨城」の産地ツアーに篠原さんと白鳥さんが参加。その際に霞ヶ浦でシラウオやテナガエビ、ナマズなどの湖食文化に出会い、すぐさま魅了されたといいます。

しかしその時は、会議室で説明を受け試食しただけだったこともあり、以来ずっと「いつか漁も見学してみたい!」という思いをもっていました。

1年越しにようやく念願が叶った産地ツアーになったのです。

朝4時、霞ケ浦の港を出港、シラウオ漁へ

シラウオ漁船は小回りの利く小さな船で操業するため、4人は2手に分かれて漁に出ます。手賀第二漁港からは、白鳥さんと吉原さんが伊藤一郎さんの船に乗ります。

伊藤さんは、霞ヶ浦漁業協同組合の理事と組合内の若手研鑽会である「霞ヶ浦水産研究会」の会長を兼任し、霞ケ浦のシラウオの価値と価格を向上させようと、地域の漁師たちをまとめ上げる存在です。

シラウオはとにかく鮮度が命だからね。特に鮮度良く出荷するときには漁獲したら船上で氷冷して、30分以内に港に戻ってくる。こうすることで、キラキラと輝く透明感をもったままのシラウオになるんだよ。夜が明ける前が漁の時間、とにかく行きましょう」と伊藤さんに連れられ、霞ケ浦へ出港します。

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琵琶湖に次いで、日本で2番目の広さを誇る霞ケ浦の深さは、最大でおよそ7m、多くは4~5mほど。最大深度が100m以上の琵琶湖とは違い浅いことから、シラウオやテナガエビ、ワカサギなどの淡水の魚が獲れるほか、コイやアメリカナマズの養殖も盛んです。

霞ケ浦のダイヤモンド」ともよばれるシラウオ(下写真)は、動力船が網を曳く「トロール」という漁法で水揚げされます。トロール漁は霞ヶ浦の基幹漁業で、シラウオ漁のほか、ワカサギ漁にも使われ、狙う魚種にあわせて曳く層や網の目合いなどを使い分けます。

昔は、帆船がゆっくりと網を引っ張る様子が秋から冬にかけての霞ケ浦の風物詩だったんだよ」と伊藤さん。魚群探知機を見ながら漁場に向かいます。

キュウリウオ目シラウオ科のシラウオは、日本では北海道から九州にかけて分布しており、霞ケ浦のように一生を湖で過ごす陸封型と、幼魚は汽水湖や河川などで育ち成長すると海に入る降海型があります。生きているうちは透明の魚体をしていますが、死ぬと白く変色してしまうほか、時間とともに状態の変化が早く、鮮度が落ちやすいのが特徴です。

陸封型の体長は6.5~7㎝、降海型の体長は9~10㎝になり、陸封型は、降海型に比べて小さいのが特徴ですが、とくに霞ケ浦は湖の栄養が多く、シラウオの成長が早く、1年で10㎝ほどまで成長します。これは、ワカサギなどの魚種でも同様で、成長が他の地域と比べて早いのが霞ケ浦の特徴です。

ちなみにシラウオは孵化ふか後、満1年で成熟しますが、産卵すると死んでしまいます。ハゼ科の淡水魚で体長5㎝ほどに成長するシロウオ(素魚)や、 カタクチイワシやマイワシなどの稚魚であるシラス(白子)とは別の生き物です。

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港を出て10分ほどでポイントに到着すると、伊藤さんは、網を湖にゆっくりと落としていきます。シラウオは、天候や水温によって活動する水の深さが異なります。伊藤さんは、魚群探知機のデータと合わせて、漁師としての経験を総動員しながら、網を曳く深さを決めていきます。この日は、あいにくの曇り模様ということもあり、やや深めに網をおろしていきます。

網をおろし終わったら、人が歩くほどのゆっくりの速さで船を操業し、網をひっぱるように、シラウオがいるであろう水域を曳いてまわります。

シラウオは、すごく繊細な魚だから、網のなかでシラウオどうしがぶつかったりこすれたりしただけでも、死んでしまったりする。だからゆっくりと網を引くのは、シラウオの品質を守るために大事なことなんだ。また、網を曳いている時間を短くすること。どんなに長くても網を曳くのは1時間以内。短く漁をしてすぐに港へ持って帰る。さっきも言ったけど、鮮度が大事だからね

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船上では、シラウオが上がったら魚箱に収め、すぐに氷で冷やす。これもシラウオの鮮度を守るためです。

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港に戻った伊藤さんたちは、すぐさまシラウオを仕分け場まで運び、選別作業に移ります。ここも時間が命。氷水を張った桶にシラウオを入れ、シラウオだけがひっかかる自作の選別網を使って小魚などを振るい落としていきます。

船上で揚がってすぐ食べたシラウオと、陸に上がってから食べたシラウオは、すこしずつ味や食感が違いますね。刻一刻と変化している気がします」と白鳥さん。

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こっちも食べてみて」と伊藤さんの妻が持ってきたのは、水揚げしたばかりのシラウオを使ったかき揚げ。選別所の隣にある加工場で、たったいま揚げたばかり、出来立てです。

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生で食べるのもおいしいですが、加熱するとまた違ったおいしさがありますね。ふわふわになった身もおいしいし、独特の苦みが消えて食べやすくなりますね」と白鳥さん。吉原さんも「シラウオもおいしいし、何よりタマネギがいい仕事をしている!」と大絶賛していました。

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網を曳くのは40分まで、あくまで質にこだわる

篠原さんと山本さんは、荒宿漁港に移動して、皆藤勝さんが1度目の漁から戻ってくるのを待ちます。

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やがて真っ暗な湖の向こうに、1灯の明かりがぼうっと見えてきました。皆藤さんのまるや丸が港に帰ってきたのです。

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今日は、波があるから水が濁っていてあまりよくないね」と言いながら皆藤さんは、獲ってきたシラウオをトラックに詰め込みます。シラウオは、陽の光を求めて湖面近くに浮かび上がってくる習性があるため、水の透明度が低いと光が水の中に届かず、深いところにいたままになってしまうのです。

状態のよいシラウオを見せたいからね、もう少し陽が上がってから出ようか」と、予定を30分ほど遅らせて5時すぎに出航することにしました。しかし、5時といっても11月中旬は、まだまだ真っ暗。沖に出たころにようやく空がぼんやりと明るくなってきました。

伊藤さんの船と同様に、岸から15分ほどで漁場に到着するとゆっくりと湖の中に網を入れていきます。

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網を曳くのは長くても40分かな。そうじゃないと、シラウオは悪くなってしまう。悪くなると高く売れないでしょ。漁の時間を短くして、高く売る(笑)。大変なことしたくないでしょ」と、船を操縦する皆藤さんは茶目っ気のある笑顔を見せながら、短い時間で鮮度を損なわないように漁をすることがシラウオの質につながると、伊藤さんと同じように説明してくれます。

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ゆっくりと船を操業すること30分。網を引き揚げ始めます。

イサザアミっていうのが一緒に獲れるけど、これが脂の多いヤツでさ。シラウオと一緒にしていると、その脂の臭いが移ってしまうんよ。港に揚げてから選別するときにも落とせるんだけど、それまでの短い間であっても、脂の臭いが移るのが嫌だから、できるだけ網を振って落としながら揚げるようにしている

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イサザアミは、アミ目アミ科の甲殻類で、体長1㎝ほど。小さなエビのような形をしています。霞ケ浦では春先にまとまって漁獲され、佃煮などの食用とされますが、この時期の漁ではシラウオが優先です。

揚がったシラウオを魚箱にあけると、こちらもすぐさま氷を入れて一気に冷やす。伊藤さんも皆藤さんも、シラウオの鮮度にはとても気を遣っていて、漁獲直後の氷冷が一つのカギとなっているのです。

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白魚は淡白ながら、生で食すと甘味が強く、さらに苦味もあるのが特徴です。食感は、水揚げされてから冷やしていくうちに身が締まって固くなり、甘味とうま味が強くなっていきます。生のまま刺身として食べてもいいですし、加熱すると身がやわらかくホロホロとするので、揚げたり茹でたり、蒸したりして食べることもできます。

トロール漁での漁期は、7月21日から12月31日まで。シラウオ漁は、トロール漁のほか、沿岸を回遊するシラウオを網にからませて獲る建網たてあみ漁(しらうおさし網漁)での漁は許可されており操業期間は、4月1日から5月15日と、11月1日から翌年2月末日まで。

霞ケ浦で朝獲れたシラウオは、すぐに発送準備され、その日の夕方には東京に届けることもできるといいます。

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羽釜で炊いたご飯と獲れたばかりのシラウオ
最高の朝食をいただく

シラウオ漁を終えて、行方市から霞ケ浦大橋を渡り、霞ケ浦対岸のかすみがうら市へ。前日から宿泊していた湖畔のゲストハウス「古民家 江口屋」に4人は戻ります。

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明治時代後期に建てられた造り酒屋をゲストハウスとしてリノベーションした趣のある建物が魅力です。さらに江口屋には、薪を焚く土窯があり、毎朝の朝食はこの窯を使って羽釜で炊くご飯が名物になっています。

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自家製の赤味噌の味噌汁や漬物などとともに、今回は特別に獲れたてのシラウオを全員でいただきます。

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霞ケ浦アドベンチャーツアー後編は次回、12月8日(水)に公開。ナマズの養殖現場の視察の様子と、ツアーの感想をまとめてご紹介します。

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「シェフと茨城」では、都内の飲食業従事者の方々が希望するような産地ツアーのお手伝いをしています。「野菜の農家さんをめぐりたい」「霞ヶ浦周辺で湖の魚とレンコン畑を見学したい」などの希望をいただければ、行程のご提案や生産者をご紹介いたします。

ぜひ、ご相談くださいませ!

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Supported by 茨城食彩提案会開催事業
Direction by Megumi Fujita
Edit & Text by Ichiro Erokumae
Photos by Ichiro Erokumae, Megumi Fujita

【問い合わせ先】
茨城県営業戦略部東京渉外局県産品販売促進チーム
Tel:03-5492-5411(担当:澤幡・大町)

最後までお読みいただきありがとうございます!次回もお楽しみに!