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この場所に来たいという動機を作るには「本物のおいしさ」が必要だった

この記事に登場する人
平文俊全さん|パスタ・マガーリ 共同オーナー、ノーバル・ホールディングス代表取締役社長
奥野義幸さん|パスタ・マガーリ 共同オーナー、ラ・ブリアンツァグループオーナーシェフ

つくば市に2022年4月27日にオープンしたばかりのレストラン「パスタ・マガーリ」は、「ミシュランガイド東京」に9年連続で掲載されている「ラ・ブリアンツァ」のオーナーシェフ、奥野義幸さんと、再生可能エネルギーの開発を行う企業でつくば市内に本社を持つ「ノーバル・ホールディングス」の代表、平文俊全さんが共同でオープンしたレストランです。

何が異色なのかというと、まずはアメリカの電気自動車大手「テスラ」のスーパーチャージャー(急速充電器)がある充電スポットが敷地内にあること。さらには、キッチンはオール電化で、そのエネルギー源がノーバル・ホールディングスの技術を活かした太陽光エネルギーを利用していることなどがあげられます。

つくば市と取手市方面を結ぶ「新都市中央通り」沿いにあり、つくばエクスプレス「万博記念公園駅」からも徒歩3分ほど。平日は近隣から、休日になると茨城県内外からゲストがやってきて満席が続いているといいます。

つくば市周辺や県内の食材をできるだけ使うことでフード・マイレージ(食料の輸送距離)を減らし環境に配慮した取り組みを行うなど、話題が多いパスタ・マガーリ。前回の産地めぐりの際に聞ききれなかった創業ストーリーなどを、共同オーナーである平文さんと奥野さんに聞きました。

パスタ・マガーリは、日本で初めてテスラの充電施設に併設されたレストランだ。
奥野義幸さん(左)と平文俊全さん(右)。
バジルペーストと帆立のパッパルデッレ
フレッシュバジルと松の実で作ったコクのあるソース、平麺のパッパルデッレは、茨城県産「ゆめかおり」の小麦粉が一部使われている。

「持続可能性を付加価値に」というテーマを
すぐに理解してくれたシェフ

――どんな経緯で平文さんと奥野さんは出会ったのですか?

弊社ノーバル・ホールディングスの本社であり、「テスラ」の充電施設を併設したレストランを作るにあたって、この場所つくば市島名は、つくばエクスプレス沿線開発地域の一つということもあって、研究所としての誘致とともに飲食店を併設することも条件にありました。

はじめは2021年9月頃で、弊社の顧問が、奥野さんの友人で料理人・米澤文雄さんと同じ中学校の同級生だったこともあり、飲食店開業を相談したところ「それなら奥野さんが適任ではないか」と紹介をしていただいたのが始まりです。

平文さんと米澤くんが話しをした直後だと思うんだけど、「奥野さん、こんなお話があるんですけど」って米澤くんから電話が来たんですよ。

米澤さんは、そもそも弊社の「持続可能性を付加価値に」という考えを理解して、一過性ではなくきちんとやり続けることができる力をもっている料理人はそれほど多くないとおっしゃっていました。

実は、米澤さんに相談した以外にもさまざまな飲食の方に話をさせていただいていたのですが、企業としての社会的な負担、税金のような感覚で取り組んでいるように感じていました。前向きだけど消極的。しかし私たちは、サステナビリティを武器にして企業を成長させる、新しいマーケットを獲得することを目指していますので、うまくかみ合わない気持ちでいました。

米澤さんは「持続可能性を付加価値に」という考えをすぐに理解してくださって、今一番勢いのある料理人で、かつアメリカを含めて海外経験が豊富で、ロサンゼルスの出店も控えサステナブルやSDGsといった考え方の本質を理解したうえで実行している奥野さんが適任ではないかとご紹介いただいたのです。

それからすぐに六本木の「ラ・ブリアンツァ」に食べにきてくれましたね。僕もつくばに行って、東京からの距離感といい、街と自然が共存しているところといい、もしかしたら東京よりも暮らしやすくて、ゆとりのある生活をしている人が多いかもしれないということを感じて、すぐに「やりたいです」とお伝えして、スタートすることになったのです。

――奥野さんは、つくば市や茨城県とはこれまで関係がありましたか?

それがほとんどなかったんです。今年の2月に生産者さんを巡ったのが、ほぼ初めてに近くて。プロジェクトが始まって何度か行き来していると、つくば市の休日の人の多さに驚きましたね。想像していた以上でした。つくば市外から車に乗ってパスタ・マガーリにいらっしゃる。県内の方々の休日の目的地になっているんです。

実は、奥野さんとお話を始めた当初は、ベーカリーがいいのではないかと思っていたんです。しかし、ベーカリーをイチから立ち上げるのは、難しいという意見を奥野さんから教えてもらえたんです。そもそもパンを焼くのはテクニックが必要、さらに早朝からの仕事になるので、スタッフへの負担が大きいと。

そうなんです。そこで、きちんとしたレストランを出す方がいいということをお話ししたんです。実際、周辺にはレストランが少なかったですし、差別化もしやすいと思ったんです。

確かに奥野さんのお話を聞く中で、地方で飲食店をするには「本当においしいもの」で勝負する必要があると思いました。

というのも、ベーカリーでなければ、たとえばコーヒーだけを出すようなカフェにした場合、大きな駅前などの交通量が多い場所に出店する「立地型」の要素が強いので、今回の店舗の場所には向いていません。

つくばの場合、交通の要所にあるお店に時間潰しでさっと入るというような集客スタイルではなく、前もって友だちと日時を決めて目的の店舗に集まる、人によっては車で1時間かけてもいくというような「目的型」の要素が強いので、来店動機となる目的が必要で、そのためには「本物」の料理が必要ででした。それならば、本当においしいものを出すレストランであれば、成功するのではないかと思ったんです。

平文俊全さん
奥野義幸さん
店内には太陽光発電と、その電力を利用した電化キッチン調理によるサステナブルなレストランであることを伝えるコンセプトビジュアルが掲示されている。

再生エネルギー産業と一緒だからこそ
伝えられる飲食業からのSDGs

――飲食業と再生エネルギー産業という、一見かけ離れた職種で仕事をすることに対する不安や、実際にやってみて実感した不都合はありませんでしたか。

そもそも僕自身、レストランをやるとは思っていなかったので、その点での不安はありました。しかしプロジェクトが始まると奥野さんはレストランのプロですので、まったく心配はなくなりましたね。

たとえば、レストランをやるならランチをやって、ティータイム、そしてディナーもやるようなオールデイダイニングがいいのではないかと思っていたのですが、奥野さんから「働くスタッフのことを考えると、時間に区切りがある方が働きやすいし、きちんと休憩も取れる。スタッフの持続可能性を考えてもランチとディナーでわけて営業しよう」というように、現状の飲食店が持つ課題を説明したうえで、意見をしてくれますので、とてもありがたいです。

今日も実はこの取材の前に会議をしていて、シェフとして新しく渡辺真一郎さんが入って、7月からディナーの営業を開始することとともに、定休日を週2日にして、しっかり休む日を作ることなどを話し合っていたところです。ランチのみの営業でもしっかり集客できている現状であれば、十分に1日休んだ分の売り上げをディナーで補填できると思ったからです。その方が、スタッフのためにもなりますから。

スタッフが働きたいと思う職場にしたいというのは、ラ・ブリアンツァグループでも大事にしていることで、スタッフを守っていくことが、これからのレストランで必要になることだということも、実際に伝えています。

あと僕の場合は、お店のオペレーションやメニュー開発はできますけど、店舗やエネルギー系のハード開発などをスピーディーに進めてもらえるのは、とても心強い。それにお互いに自分たちの意見が100%通るわけではないので、だからこそ意見を言い合えるのは楽しいですよね。

不都合というのはなくて、むしろメリットの方があったように思います。たとえば、持続可能性やSDGsといった飲食業界からのメッセージは、ある一面だけをとらえられたり、その言葉だけが先行してしまってきちんと伝わらないことがあります。すごく良い取り組みをしていても強く言いにくいと思うこともあるんです。

しかし、今回はつくば市というサイバーシティとしてのイメージもあったり、アメリカで電気自動車最大手のテスラやノーバルの太陽光発電であったり、実際にテーマとして取り組んでいる企業と一緒にやっているので、強く押し出していくことができるんです。

――平文さんを含めたノーバル・ホールディングスのスタッフで、ロサンゼルスの奥野さんの新店にも行かれたそうですね。

はい、そうなんです。2月のオープン直前に渡米しました。パスタ・マガーリ(Pasta Magari)は、奥野シェフがロサンゼルスに出店したTokyo-Itarianがコンセプトの「Magari Hollywood」とイメージ・パートナーですので、やはり本家は見ておかないといけないというのと、テスラを含めた持続可能な価値に対してのアメリカでのムーブメントを肌で感じておきたいという思いもありました。

本当に来てくださってうれしかったですし、改めて平文さんたちが本気でこの事業を進めようというのが伝わっても来ました。

ロサンゼルスでは、古い建物をリノベーションして活用している事例をたくさんみかけました。サステナブル・アーキテクチャ(建築)として、リノベーションしているからこそかっこいいというのが、しっかり根付いているのが日本よりも進んでいると思いました。

話は戻るのですが、奥野さんと事業を進めていくなかで、どんどんスピード感をもって進められたのは良かったと思っていて。それは、「流行っているからやろう」ではなくて、「誰よりも先にやらないと意味がない」ということが共有できていたのも大きかったと思います。

店内に飾られている写真は、平文さんたちがロサンゼルスに行った際に撮影したもの。現地で感じたことを忘れないようにしたいという思いが込められている。
6月からパスタ・マガーリのシェフに就任した渡辺真一郎さん。熊本県から茨城県つくば市にやってきた。「熊本と茨城は、街の雰囲気が似ているように感じます」と渡辺さん。
パスタ・マガーリは、7月からディナー営業を始める予定。どんなメニューになるのか楽しみだ。

本社を置くのに理想的だったつくば市

――ノーバル・ホールディングスとして、そもそもつくば市を創業地に選んだのにはどんな理由がありましたか?

僕の出身がつくば市ということもありますが、実は東京都内も候補にありました。最終的につくば市に決めたのにはいくつかの理由があって、まずはソーラー事業を進めるには圧倒的に平坦な土地が多いこと。そして、海外を含めて各地に出張へ行く際に、高速道路のインターチェンジが10分以内にあり、茨城空港や成田空港といった空港にも車で1時間以内で行けるというアクセスの利便性が大きな理由です。

実際に、テスラがスーパーチャージャーの設置場所としてつくば市を選んだのも車を使っての移動がしやすかったからだそうです。

東京に住んでいて、つくば市にゆかりがなかった僕からしたら、地元出身の人たちがパートナーにいるのは、かなり大きいですよ。平文さんたちがつくば市出身でなければ、たぶんお受けしなかったと思います。それくらい重要です。

――オープンしてから2カ月、茨城県の食に対して初めてだったり、改めて知ることも多かったのではないでしょうか?

産地から近いというのは、東京にはない価値観ですよね。今日も「シェフと茨城」の方々が、朝採れのトウモロコシ(茨城町常井の「水戸ミライアグリ本田農園」)を持ってきてくださって、ゆでずに生で食べたんですが、これがめちゃくちゃおいしかった。これは東京で絶対にできない。こういうおいしさをパスタ・マガーリでも伝えていきたいですね。

茨城県出身で、茨城県の食材を食べて大きくなったと思うのですが、パスタ・マガーリで試食をしていると、こんなにいい食材がつくばの近くにあったのかと驚かされます。とくに茨城県のお肉とフルーツはクオリティの高さを改めて実感しました。

おそらく、パスタ・マガーリにくると僕と同じようなことを感じてくれる方が多くいるのではないかと思っています。故郷の食のプロモーションに少しでも協力できたらうれしいですよね。

朝採れで生でも食べられるトウモロコシをかじる奥野シェフ。
茨城県産ブランド豚「霜降りハーブ」と甘薯のロースト
県内産の豚肉と甘いサツマイモをシンプルに焼き上げた一皿。
常陸牛の塩レモンチミチュリソース
茨城の銘牛にアルゼンチンのミントソースを合わせた逸品。

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これまで「シェフと茨城」では、シェフと生産者の皆さんの関係性をさまざまな切り口で取り上げてきました。しかし生産者といえば第一次産業の担い手である農業、水産業、畜産業に携わる方々をフォーカスさせていただくことが多かったと思います。

今回取り上げたのは、再生可能エネルギーの生産者とシェフの新しい関係性です。再生可能エネルギーを生産するノーバル・ホールディングスの平文さんと奥野シェフがタッ グを組んだ新たなレストランの取り組みについて取材し、シェフと生産者(茨城)の新しいチームのカタチ、これまでにないシェフと生産者の関係性を築ける可能性も十分にあることを実感することができました。

パスタ・マガーリのこれからの展開も大注目ですし、今後は茨城県内の一次産業の方々とともに他の産業とシェフの新しい関係性もどんどん発信していけたらと思っています!

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次回の更新は、7月13日(水)。今回の記事でも登場したトウモロコシ農家の「水戸ミライアグリ本田農園」(茨城町常井)を取材しました。都内の人気イタリアン「JINBO MINAMI AOYAMA」でも使われるようになったとのこと。シェフの神保佳永さんのトウモロコシ料理とともに紹介する予定です!

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Supported by 茨城食彩提案会開催事業
Direction by Megumi Fujita
Text by Ichiro Erokumae
Photos by Ichiro Erokumae

【問い合わせ先】
茨城県営業戦略部東京渉外局県産品販売促進チーム
Tel:03-5492-5411(担当:澤幡・大町)

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