編集後記|「頑張っている人にスポットライトを当てよう」という県だったからnoteを始められた
昨年12月からスタートした「【茨城県公式】シェフと茨城」は、2021年度も継続が決まり、これからも引き続き、茨城県の産地とシェフの持続的な関係構築のための情報発信や、取り組みの紹介、産地ツアーの支援などしていきたいと思います。新年度もどうぞよろしくお願いいたします。
新年度になって最初の投稿は、この企画を進める茨城県営業戦略部の澤幡博子と新年度からチームに加わった大町兼、「シェフと茨城」のプロデューサー藤田愛、編集・執筆の江六前一郎が集まって、「シェフと茨城」のこれまでとこれからについて語り合いました。
茨城県営業戦略部 東京渉外局
県産品販売促進チーム チームリーダー
澤幡 博子
茨城県営業戦略部 東京渉外局
県産品販売促進チーム 主事
大町 兼
「シェフと茨城」プロデューサー
藤田 愛
「シェフと茨城」編集
江六前一郎
食と旅と相性がいいnoteは、自治体とも相性がいい
藤田 大町さん、初めまして。新しく「シェフと茨城」のチームに入っていただいてありがとうございます。これからよろしく願いいたします。
大町 よろしくお願いいたします。僕の出身地は常陸大宮市なんですが、自宅のある地域が農村部のため、まわりには農家の方が多くいらっしゃり、農家さんにとても親しみをもっているんです。茨城県全体で見ても、全国に誇れる野菜がいっぱいあります。その中で、販売の担当として東京渉外局に来たので、しっかり頑張りたいな、と思っています。
江六前 大町さん、よろしくお願いいたします。
さて、早速なんですけど、noteのスタートからお話できたらと思います。きっかけは、都内のシェフの方々をお連れした昨年秋の生産地ツアーでした。
藤田 私から企画を提案させていただいたのですが、これからの若い料理人を茨城県にお連れするという企画を評価していただいたんです。
澤幡 茨城県の農業も高齢化している中で、若い世代に農業ってかっこいいよね、ということを発信していきたいという思いがあったので、「若手生産者と若手料理人」という組み合わせに可能性を感じたんです。
江六前 20~30代の若手料理人が中心になったツアーで、それを報告する目的でnoteが始まったわけですが、noteに対してどんなイメージがありましたか?
澤幡 なんか、かっこいいなと(笑)。noteは、クリエイターさんが使っているイメージがあって、そういう方々は食に関心もあり、旅も好きそうという印象があって、相性がいいメディアだなと思っていました。
藤田 そうでしたね!私が「産地ツアーとともにnoteもやりませんか?」と提案したら、「いいですね!」とすぐに反応してくださったんですよね。
澤幡 それと、江六前さんも参加されていた「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」の取り組みもnoteでの活動内容の公開を条件にクリエイターさんのワーケーションを支援するというもので、話題になっていたのもありました。
観光キャンペーンであれば、マス向けにテレビや雑誌で大きく取り上げてもらい、たくさんの方に来ていただくというのが、王道のやり方かと思いますが、食に関しては数ではなく深さを狙うやり方もこれからはありかもと思うんですね。響く人に響けばいいんじゃないかと思うんです。
江六前 noteをやって良かったと思うことはありますか?
澤幡 最初は、サイトの「トンマナ」(トーン&マナー)という業界用語も知らなくて、そういうブランディングのことを藤田さんから教えてもらったんですよね。
たとえば初回のnoteを公開したとき、県庁の中から、「うちの課の情報も掲載してほしい」という連絡をありがたいことにいくつかいただいたのですが、「noteはもう少し戦略的にやりたい」と言ってお断りしたんです。
多くは、情報発信サイトのように見ていたわけですけど、noteをそういう風に活用してしまうと、他のポータルサイトと同じようになってしまうわけですから。そのあたりは、私自身もだんだん分かってきたことなのですが。
藤田 でも、今回のnoteの企画は、澤幡さんじゃなければ難しかったと思うんです。普通は「noteを上司に説明しなければいけないんで」と言われて、月間のユーザー数や今後のメディアとしての可能性のようなものをプレゼンしなければいけない。だけど、澤幡さんは、すでにnoteのことを知ってくださっていたので、「いいですね」と進めてくださったと思うんですよね。
澤幡 私自身としても、継続してシェフと茨城県が繋がっていく姿を作れないかと考えていたんですね。というのも、都内のシェフに期間限定で県の食材を使ったメニューフェアをやっていただくことはこれまでやってきたのですが、そのあとのフォローがなかなかうまく行かないんですね。
他に継続する方法はないのか、と思っていたところに藤田さんから生産地ツアーを紹介するだけでなく、継続して記事を配信できる提案をいただいていて、これならば継続してシェフと茨城県が繋がっていくことができるかもしれないと思いました。
茨城に対して「いいね」といってもらえるように
江六前 藤田さんはnoteをやってみてどう感じていますか?
藤田 シェフと生産者の皆さんがいろいろと気づいてくれてコメントをくださるのはとてもうれしいですね。シェフの皆さんだったり、生産者の方々が話してくださったことを、できるだけありのままにお伝えしようと思っていることを読み取ってくださるんですよ。
あとは、まわりの友人たちから「茨城っていいね」って言ってもらえるようになりましたね。私自身、茨城県水戸市の出身なので、地元ことをSNSで発信はしていたのですが、「茨城ってそういうものもあるんだねぇ」くらいの反応だったんです。
ですけど「いいね」と言ってもらえるようになったのはnoteを始めてからで。おいしいものいっぱいあって、茨城いい感じだよねって、SNS感度の高い方に言ってもらえるのがとくにうれしいですね。これがブランディングになっていくのかな、と思っています。
澤幡 良いお店や良いシェフを選んでいただいていることに感謝しています。茨城県にはないようなお店や若いのに考えがしっかりしたシェフが出てくださっているので、「茨城県の食材がそんな素敵なお店で使ってもらっているの?!」とか、「素晴らしい料理人がいるんだね!?」とか、特に食に詳しい人たちにとっては驚きになっていると思います。
大町 僕は、出身が常陸大宮市なので、雪村庵は知っていたのですが、藤シェフは存じ上げていなかったので、「シェフと茨城」の記事を読んで、シェフの方と、生産者の方のことを知り、行ってみないといけないなと思いました。
藤田 藤シェフの記事を見て、私と同じ世代の友人から、「お店の名前は知っていたけど、こんな若いシェフがやっているお店だったなんて知らなかった、ぜひ地元に帰ったときに行ってみたい」とメッセージをもらいました。
県内のお店情報を知る媒体が少ないですし、ましてや、料理を作っている人や、使われている生産者さんのことを知るすべがないので、そういう役割を「シェフと茨城」が担っているように思います。
江六前 noteは最少人数で進められるメディアだと思いますし、最小だからこそスピーディに、テレビや雑誌よりも早く伝えることができるので、ひとつのツールとして持ちたいと考える自治体が出てくるのではないかと思うんです。もし、澤幡さんのもとに、他の自治体の方がnoteやってみたいと相談に来たとしたらどうしますか?
澤幡 自分のところの強みを把握してくださいということですかね(笑)。たとえば茨城の近隣県が、「シェフと茨城」と同じようなnoteを運営することは難しいと思いますし、そもそも一緒に進めるチームのメンバーによってできることは変わってくると思うんですね。今回は、まさにディレクションする藤田さんと、記事を編集する江六前さんがいてくださったからできたことだと思います。例えば大手の広告代理店にお願いしても、ここまで熱量をもってやれなかったのではないでしょうか。
自治体では珍しい営業戦略部は知事直轄の部署
江六前 県職員でしかも、県産食材のPRを担当されているような方にお会いする機会は多いのですが、プライベートの時間に高級店から小さなイベントまで幅広く実際に行ってお金を使っているという方はあまり出会ったことがないので、驚いているんです。澤幡さんは、どうして、そこまで食がお好きなんですか?
澤幡 40歳頃に、半年間東京での研修があったんです。それは、全国の都道府県の職員が集まる研修で、寮生活をしながら地方自治のことを学ぶものでした。
その時に、日本の各地にはそれぞれ固有の文化があることに改めて気付いたんですね。その後茨城に帰ってから、「茨城にはこんなにいいところがあるんだよ」というのを研修で知り合った他県の職員に伝えるためにブログを始めました。水戸梅日記というブログで、2005年から毎日1記事を投稿を始め、いまでも続いています。7000記事以上になりました。
藤田・江六前 すごいですね!
澤幡 ブログだと検索性が高いので、エリアごとに整理しておけば、お勧めのお店をご紹介するときに、データベースとして活用できるというメリットもあります。
そういったことをやっているうちに、最初はお店だけだったんですけど、そのお店で使っている県産の食材に興味をもつようになって、そういった背景やその先にあるつながりまで知りたくなっていったんです。
江六前 それほどまで食のことを発信されていても、部署としては別のところにいらしたんですよね。
澤幡 そうですね。企画部で計画づくりをしたり、福祉の部署では、児童虐待なども担当したりしていました。
実は、最初に配属されたのは農林水産部だったんですけど、その時は予算や経理の担当で、現場ではありませんでしたね。その頃はまだ女性が事業をやるというのはなかったんですよ。
藤田 それも時代ですね。現在の営業戦略部の東京渉外局の県産品販売促進チームに配属されたのが、2020年で、食関係に携わることになるのですか?
澤幡 その前に同じ営業戦略部の販売流通課というところに2年間いました。農産物を県内外で販売するための仕組みづくりをしていたんですね。ですので、茨城県の食材をPRしていく仕事としては4年目になります。
藤田 県庁の部署に「営業」と名前がついている部署は珍しいですよね。
澤幡 そうですね。あまりないと思います。そもそも県の役割の中で、自ら営業をして利益をあげるという考え方はあまりないですからね。
営業戦略部は、大井川和彦知事が新設した肝入り部署なんです。販売流通課は、それまでは農林水産部にありましたが、知事が観光やイメージアップの部署と一緒に営業戦略部として再編したんです。
藤田 異動の希望は以前から出されていたんですか?
澤幡 そうですね。上の人たちも澤幡なら向いているだろうと思ってもいたんだと思います。食を扱う部署への異動希望を出していたので、それが叶ってうれしかったですね。この3年間はとても幸せです(笑)。
江六前 大町さんも新年度から東京渉外局勤めで東京にいらして、やっぱりうれしいですか?
大町 そうですね。東京渉外局に来れてうれしかったです。自分たちで考えて、外に出てPRできるというのは、楽しいことでもあります。
藤田 県庁のお仕事は受け身になることが多いと思うのですが、営業戦略部は、部の名前からも「攻めの姿勢」が感じられますよね。
澤幡 大井川知事が言うのは、東京中央卸売市場の農産物のシェアを維持するよりも、食材の価値伝えて高い値段で買ってもらうことが大事だと。頑張っていいものを作っている生産者さんがクローズアップされて、他の生産者さんたちがそれに追いつきたいと努力するような仕組みにしようと言います。
最初の頃は、頑張っている生産者だけを引き上げるということは、どんな人も平等に支えるというそれまでの自治体の役割と大きく違うので、迷うことも多くありましたよ。でも、本当に平等なのは頑張っている人を応援することじゃないかと、何度もディスカッションしたことで、攻められるようになってきたというところです。
江六前 そうですよね。生産者の方々は、みんな同じ食材を作っているわけですから、平等に支援するというのは、一つの考え方ですよね。最初は、ハレーションが起きますよね。「良いもの」とか「頑張っている」というのは、どんな基準だと考えていらっしゃいますか?
澤幡 自分の食材を食べてもらいたい人の顔が見えている、ということかと思います。そのためには、自分なりのやり方を見つけて、常に向上心をもって取り組んでいる人ですかね。
藤田 つまるところ、「人」ですね。
澤幡 そうですね。でも県としては、産地の育成とか流通の無駄を省くとか、量や金額の面で頑張らなければいけないこともたくさんあって、自分たちがやっているこの「人」にフォーカスしたnoteでの発信がどれだけ貢献できるのかと疑問に思うこともありました。
最近は、noteの投稿を見て「よかったね」と言ってくれる方も増えて、多くの方に知ってもらえて、生産者さんも喜んでくださって励みにもなっているようなので、こうやって形にできてよかったな、と思っています。
最終的には、茨城県の農産物は良いんだということを知ってもらって、野菜の価格を決める方々にも届いて、少しでも高い値を付けてもらえるようになるといいな、と思っています。
とはいえ、食材の目利きであるシェフに、茨城にはいいものがあるんだとまず認知してもらい、その情報が他のシェフにも広がっていくことが、時間はかかるかもしれませんが、意外と目標への近道かもしれないし、何より茨城はシェフが通える距離という大きなアドバンテージをもっていますから、今回のnoteは可能性に満ちたものだと思っています。
藤田 特に新年度はシェフや飲食関係者の方々が自主的に産地をまわれるような仕組みづくりも目指そうとしているので、「シェフと茨城」が、シェフが茨城の生産者を訪ねる際の「窓口」の役割になるようにnoteをもっと活用していきたいですね。
あと、現時点ではシェフや飲食関係者の方々に向けた発信に特化していますが、茨城県の生産者の方々が、後々は飲食関係に限らずさまざまな方の旅の目的地となるような取り組みに発展していきたいと思っているので、今年はその辺も仕込んでいきたいと思っています。
一つの価値観だけにならないことも意識したい
江六前 これまでの取材で心に残っている取材はありますか?
澤幡 茨城県出身のお2人、サーモン・アンド・トラウトの中村拓登さんとアヒルの大井健司さんとの対談ですね。
とくに中村さん(写真内左)の「ブランド食材だからといって使いたいわけではない」とおっしゃっていて、それを私は「ブランド食材を使うのはカッコ悪い」と言われたような気がしたんです。ブランド食材だけを並べるのではなくて、普通のジャガイモやニンジンをおいしくすることが料理人の仕事なんだという意見を聞けたのは衝撃的でしたね。
江六前 僕も、印象的な対談でした。結果的に2人の対談記事が一番多くスキがついた記事ということもあって、読まれた方々にとっても、心のなかにあった「ブランド食材」に対するどこか疑問のような、モヤモヤとしたものに響いたたのかな、と感じています。
あとは、大町さんも読まれた常陸大宮にある「雪村庵」の藤良樹さんのインタビューでは、茨城県に行ったら寄ってみたいですという感想をいただいたり、僕の知る範囲でも反響が大きかったです。
一方で、バスクでシェフと生産者の密なコミュニケーションの一例として、届いた食材でも好みでない食材であればとらないという話に対して、「食材への敬意がないのではないか」という声をSNSでいただきました。
文章中にも書いたことなのですが、ある種の「厳しさ」が良い食材を生むことになるという意見を僕自身も持っているのですが、それが本当に時代の感性にあっているのかな、と考えるきっかけになったりしました。
澤幡 実際に話している場面にいたので、私も切磋琢磨していきたいという意味だと思いました。
でも、「シェフと茨城」に出てくださるシェフの方々は、いろいろな考えの方がいらして、一つの価値観だけで編集されていないというのも大事なことだと思っています。
藤田 出てくださるシェフのみなさんからも「県のメディアなのに、こんなぎりぎりの発言をそのまま載せちゃうんですね」と驚かれます。
澤幡 先日公開されたアルシミストさんの生産地ツアーでも、産地に行ったからその食材をすぐに使うということではなくて、いつか必要な時に出てくるように「大切に引き出しに入れておくんです」という山本健一シェフからの名言も聞くことができました。とにかく毎回、自分が一番楽しみにしているかもしれませんね。
藤田 向き合う人たちによって伝え方を変えていかないといけないんだということを私も学ばせてもらいましたね。
ネガティブなこともふくめて自治体が強い発信をすることはあまりないので、すごく難しいところを進めている意識はありますね。
澤幡 頑張っている人にスポットライトを当てようということができる県になったからこそできることだと思っています。
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次回の更新は、4/28(水)。茨城県出身で、東京・外苑前の「JULIA」のオーナーソムリエ、本橋健一郎さんが企画した生産地ツアーに密着しました。どうぞお楽しみに!
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Supported by 茨城食彩提案会開催事業
Direction by Megumi Fujita
Edit & Text by Ichiro Erokumae
Photos by Ichiro Erokumae
【問い合わせ先】
茨城県営業戦略部東京渉外局県産品販売促進チーム
Tel:03-5492-5411(担当:澤幡・大町)