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CHEESE STANDと一緒にまわった5者5様の茨城県産チーズの世界

この記事に登場する人
CHEESE STAND
藤川真至さん|チーズ職人、CHEESE STAND代表
柳平孝二さん|チーズ熟成師、CHEESE STAND LAB.
関口幸秀さん|料理人、CHEESE STAND 商品開発
米田 望さん|CHEESE STAND広報・PR
チーズ工房
鈴木美登里さん|石岡鈴木牧場
川田 訓さん|FROMAGERIEつくば
小川真二さん|森のシェーブル館
亀井わかなさん|ひたちおおたチーズ工房
西山厚志さん|新利根チーズ工房

国産チーズに注目が集まっています。

2021年にナチュラルチーズとして消費されるために作られたチーズの国内生産量は、およそ23,700tで前年比11.8%増。2011年がおよそ14,200tでしたから、10年で93.4%も上昇したことになります。

そもそもチーズの総消費量が10年間で20.4%も増えており(29,400tから35,400t)、チーズの輸入量も増え続けています。日本人のチーズへの関心が高まるなか、国産チーズは消費拡大の役目を大いに果たしているといえるでしょう(農林水産省「令和3年度チーズの需給表」より)。

東京・渋谷「CHEESE STAND」の代表でチーズ職人の藤川真至さんは、多様で奥深いチーズの文化を日本に根付かせようと、都会のど真ん中でフレッシュチーズ専門店を2012年にオープンしました。以来、自店だけでなく、チーズそのものの認知度の拡大を目指して発信を続けています。今日のチーズブームを支える人物の一人です。

茨城県内にもチーズ工房が5軒あります。全国に330軒以上あるといわれているチーズ工房の数からみるとまだまだ数は少ないですが、酪農やチーズ作りに情熱をかける生産者たちによって個性的なチーズも生まれてきています。

2023年1月、藤川さんのほかCHEESE STANDの熟成師・柳平孝二さん、商品開発担当のシェフ、関口幸秀さん、広報の米田望さんとともに、定休日を利用して日帰りで県内5軒のチーズ工房をまわってきました。

左から藤川さん、関口さん、米田さん、柳平さん。

チーズ作りは、土づくり。信念を貫く牧場のチーズ

石岡市|石岡鈴木牧場

石岡鈴木牧場は、茨城県南部の石岡市でチーズの原料になる生乳から生産し、フレッシュチーズやヨーグルトなどを製造しています。とくにおいしい乳製品を作るには、原料の良さが重要。そして良い乳を牛から搾るためには、牛が食べる良い飼料づくりに目を向ける必要があります。乳製品やチーズ作りの原点は、翻って良い作物を育てるための「土づくりにある」というのが石岡鈴木牧場の考え方です。

石岡鈴木牧場の三代目、鈴木績さんの妻で、愛知県の実家も酪農をしている美登里さんに牧場を案内してもらいます。

石岡鈴木牧場の鈴木美登里さん。
牧場に入って驚くのは、特徴的な牛の糞尿の匂いがまったくないことだ。牛が健康に暮らしていることが、牧場に入っただけで伝わってくる。
石岡鈴木牧場では、およそ60頭の牛を育てている。
鈴木さんの説明を聞くCHEESE STANDのメンバー。
牛1頭1頭に名前を付けて家族と同様に愛情をもって育てる。

牛たちに与える飼料のトウモロコシや牧草を9haの畑で、年間2.5回栽培しています。また近隣の農家さんにもご協力いただき、今では、飼料の6割を自給できているんです。穀類も国産にこだわっていて、オリジナルの配合で飼料メーカーさんに作ってもらっています

良い作物を育てるためには、良い土をつくる。育てている牛の糞に木材のチップや米糠などを混ぜて発酵させた自家たい肥作りも、美登里さんたちの仕事です。

さらに2022年からは、くず大豆を近隣から購入して、飼料に混ぜるようになりました。国産であること、輸送コストやそれによる環境負荷が少ないことなどを優先し、持続可能な酪農を目指すことも石岡鈴木牧場が目指す牧場の姿です。

30年前に、畜産コンサルタントの熊谷宏さん(故人)から、『健康な牛を飼う』酪農の教えを、両親がもらったそうです。それから飼料を見直し、土づくりを見直して納得いく成果を出すのに10年以上もかかったといいます。私の実家は酪農家で、就職後はオランダや北海道で酪農に関する仕事をしてきました。いくつも牧場を見てきた経験の中でも石岡鈴木牧場のように信念を貫く酪農は見たことがありません。私自身、その貫きつづけた信念には大きな価値があると思っています

自家製の発酵飼料。
3年ほど前から子実コーンを千葉県の農家から購入し、自分たちでひきわりして牛に与えている。
発酵させた牧草を実際に噛んでみると、甘味とうま味を感じることができた。
たい肥場。定期的に空気を入れ替えながらたい肥を作っていく。発酵温度は70℃以上に達する。そのため雑草などの種が死滅する。
たい肥に実際に触れるCHEESE STANDのメンバーたち。思った以上にサラサラで乾いていることに驚いた様子。
「良い土づくり」から始まる石岡鈴木牧場の製品のすべての原料になる牛乳。サラリとした口当たりで軽やかなのに、コクやうま味がある。殺菌以外手を加えていないノンホモ(均一化していない)牛乳だ。
美登里さんも製造を担当する石岡鈴木牧場のチーズ。モッツァレラチーズに、さけるチーズ各種、モッツァレラチーズを1週間熟成させたスカモルツァチーズ。
ヨーグルトは環境に配慮し、ガラス瓶を再利用しながら使用している。わざわざ瓶を返しにくる人は多く、「瓶を返すのがきっかけで、再訪してくださるんです」と鈴木さん。乳製品を通して、消費者とつながったことで、より一層、飼料づくりへのこだわりは強くなっていったという。
「牛への愛や、仕事への誇りを感じました。また環境への取り組みなども実践されており、私もそうありたいと思いました」と藤川さん。

脱サラして渡仏。2022年秋開業の最新チーズ工房

笠間市|FROMAGERIEつくば

2022年9月に茨城県中部の笠間市でチーズ製造をスタートした、県内でもっとも新しいチーズ工房が「FROMAGERIEつくば」です。

チーズ職人で代表の川田訓さんは、農林水産省(後に独立行政法人職員に移行)で19年ほど家畜改良のなかでも特に乳用牛に関する仕事をしてきました。在省中は、酪農危機と呼ばれ牛乳の消費量が減っていった時期でもあり、付き合いのある酪農家の悩みや不安が募っていく状況を心苦しく感じていたといいます。

「FROMAGERIEつくば」の川田訓さん。

牛乳をもっと飲んでほしいといっても、なかなか増えていかないですよね。加工した乳製品はどうだといったら、消費量があるものといえば、ヨーグルトくらい。乳製品の種類を増やすことが大事なのではないかと考えていたなかで、あるときフランス・シャンパーニュ地方のラングルというチーズを食べたんです。このときフランスチーズのおいしさを知り、それならフランスでチーズを学んで、日本でチーズ工房を開くことができたら、乳製品の種類を増やすことに貢献できるのではないかと考えたんです

2018年に独立行政法人家畜改良センターを辞め、フランスに渡った川田さんは、1年目はフランス・ブルゴーニュ地方の都市ディジョンとフランス東部のフランシュ=コンテ地方ドゥ―県の都市ブザンソンとにそれぞれ6カ月間暮らし、語学とチーズを学ぶための準備をしました。

そして2年目に、フランス東部のフランシュ=コンテ地方ドゥ―県の町・マミロルにある「ENIL(École Nationale d'industrie Laitière、国立酪農学校) de Mamirolle」で1年間チーズをはじめとする乳製品の製造について学び、ドゥー県にある2つのチーズ工房で研修しました。

2020年に帰国するとすぐに茨城県に移住。起業の準備をスタートし、2年間の準備期間を経て開業したのです。

茨城県産の安心安全な牛乳を原料としたチーズを食べてもらいたいですし、つくばエリアの素材を使っていきたいです。すでにチーズを発酵させる菌は、つくば市にある農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)で開発されたつくば由来の菌を使っています

またウォッシュタイプチーズのラクレットを磨く際には、茨城県南西部の境町で2021年に開業した「さかいまちワイナリー」と、水戸市のまちなかワイナリー「ドメーヌ水戸」のワインを使用。笠間市や水戸市のパン屋や洋菓子屋、フランス料理店などへの卸しを始めて、地域に根差しながら少しずつ、そして確実に成長していこうとしています。

熟成庫を見せてもらった。写真は試作中の白カビタイプのチーズ。ハート形がかわいらしい。
ウォッシュタイプの熟成チーズ。川田さんが暮らしたドゥー県でみてきた素朴な山のチーズを目指して作っている。
「思い切った転身で、これからどのようなチーズを作られていくのか楽しみです」と藤川さん。
ラクレットタイプの熟成チーズ。
熟成菌として酵母を主体とした酸凝固タイプのチーズで、「Le muguet」(フランス語でスズランの意味)の名前で販売されている。工房近くにスズランの群生地があることから名が付いた。
熟成チーズの表面を洗う際につかわれている「さかいまちワイナリー」のワイン。

FROMAGERIEつくば
https://fromagerietsukuba.co.jp/

30年の工夫と経験の蓄積が安定したクオリティを生む

水戸市|森のシェーブル館

フランス語でヤギの乳から作られるチーズを総称して「シェーブル(chèvre)」といいます。水戸市森林公園内にあるチーズ工房「森のシェーブル館」は、文字通りヤギのチーズを中心にチーズづくりをスタートさせた工房です。

1991年に創業した歴史ある工房で、チーズといえば6Pチーズのようなプロセスタイプが主流だった頃にシェーブルチーズを作っていたことにおどろかされます。

チーズ職人になりたかったというわけではなく、(一財)水戸市農業公社の職員として配属されてチーズ製造に携わり始めたのですが、あれよあれよという間に30年が経ってしまいました」と笑うのは、チーズ製造の責任者であり、水戸市農業公社乳製品係技師の小川真二さんです。

30年の間に、1998年から始まった「ALL JAPANナチュラルチーズコンテスト」で、シェーブルチーズの「サントモール」(2001年に優秀賞、2015年に金賞)や、フレッシュチーズの「カチョカヴァロ」(2013年に優秀賞)などの商品で入賞5回を誇ります。

さらに2014年から始まり、2年に1回開催される「JapanCheeseAwards」でも入賞が続いています。最新の2022年アワードでは、カチョカヴァロが最優秀部門賞を受賞するなど、長年にわたって高いクオリティを保ち続けるチーズ工房です。

森のシェーブル館(水戸市農業公社)乳製品係技師の小川真二さん。
写真手前の三角形のチーズが「ゴーダ」。ゴーダから反時計回りに、「カマンベール」→「サントモール」→「ストリング」→「カチョカヴァロ」 。さまざまな種類を試食した。「30年も前からシェーブルを中心にチーズを作りつづけている姿勢に感銘をうけました。チーズの安定感も素晴らしく、次のステップになる新工房でのチーズも楽しみです」とシェフの関口さん。

森のシェーブル館では、山羊乳100%のカマンベールタイプのチーズ「シェーブル」と、木炭で表面が覆われた同じく山羊乳100%でクリームチーズ風の「サントモール」のほか、牛乳を使ったカマンベールタイプやゴーダタイプの熟成チーズ、カチョカヴァロやモッツァレラなどのフレッシュタイプのチーズを幅広く製造しています。

山羊乳は入手が難しく、現在は長野県の牧場から届けてもらっている(6月から11月頃まで)ほか、牛乳は茨城県産を使用しています。

30年経って工房も古くなってきたこともあり、同じ水戸市森林公園内に移転整備し、今年6月頃から稼働を開始する予定です。熟成庫を増やすことで、これまでできなかった長期熟成タイプのチーズにも挑戦してみたいですね

チーズ工房を外から見学。使い続けている道具や設備の一つひとつから、30年間工夫を重ねながらチーズを作り続けてきたことが伝わってくる。
限られたスペースで、数種類のチーズの熟成を行うため、森のシェーブル館では、真空パックにして熟成をかけていた。「自分では考え付かなかったけど、方法としてはありうると思う。30年の歴史の間にあった試行錯誤の数々と、製造回数に裏打ちされた安定感を感じました」とチーズ熟成師の柳平さん。

コンテストでも評価されるチーズは23歳の職人が作り出す

常陸太田市|ひたちおおたチーズ工房

茨城県北部の常陸太田市にある「ひたちおおたチーズ工房」は、2020年5月にオープンしたばかりのチーズ工房です。一般財団法人里美ふるさと振興公社が運営しており、もともとは常陸太田市の給食センターだった建物をリノベーションしてチーズ工房が設立されました。

すでにチーズの評価は高く、初エントリーとなったJapan Cheese Awards 2022で、早くも「モッツァレラ」が金賞、「カチョカヴァッロ」とセミハードタイプの「さとやま」が銅賞を受賞しています。

新設ながらも製造技術の評価を得たひたちおおたチーズ工房を引っ張っているのが製造責任者の亀井わかなさん。茨城県立農業大学校を卒業し、2021年に工房に入った23歳の若きチーズ職人です。

ひたちおおたチーズ工房の製造者の亀井わかなさん。農業大学校を卒業後、常陸太田市の地域おこし協力隊として、ひたちおおたチーズ工房に入った。現在は、(一財)里美ふるさと振興公社の職員としてひたちおおたチーズ工房に所属している。

関東平野の北東の端に位置する常陸太田市は、豊かな土壌の米どころであるとともに北部の山間部では、夏が比較的涼しいこともあり、涼しい気候を好む牛を飼う酪農や畜産の農家が多いのも特徴です。

ひたちおおたチーズ工房の特徴は「オールひたちおおた」のチーズであることです。亀井さんのほか、チーズ作りをする製造スタッフは市内の在住者であるのはもちろん、常陸太田市産の牛乳だけを使ってチーズを作っています。

じつは、牛乳は地域を指定し手に入れるのは、難しいことであります。本来、酪農家から集乳した牛乳はひとまとめにされるため、茨城県産と呼べても地域を指定して呼ぶことは難しいものとなっています。

チーズ工房の立ち上げにあたり、関東乳販連や茨城県酪連の協力により、里美地区にある酪農家(現在は6軒)から集乳した牛乳をチーズ工房へ届けるルートを確立し、手に入れることができたのです。

これらのことにより、新鮮な里美地区産だけの牛乳が届けられ、工房の特徴である「オールひたちおおた」となったのです。

現在は、水戸市やひたちなか市を中心としたホテルや飲食店、道の駅ひたちおおたなどに卸しています。常陸太田市の魅力を伝えられるようなチーズが作れるように、これからも頑張っていきます

チーズの製造について、CHEESE STANDの柳平さんと意見交換をする亀井さん。チーズ作りについて情報交換できる貴重な機会になったようだ。
Japan Cheese Awards 2022で金賞を受賞したモッツァレラ。「経験が短い中で、あれだけ高品質なチーズを作られていることに驚きでした。モッツァレラで負けないように頑張らないと、と食べて感じました」と藤川さん。

たった一人でチーズに向き合い続けるチーズ職人

稲敷市|新利根チーズ工房

茨城県南部、千葉県との県境近くの新利根川沿いにある「新利根チーズ工房」は、工房の目前に広がる茨城県唯一の放牧酪農場「新利根協同農学塾農場」の新鮮で味わいの強い牛乳を使ってチーズを作ります。

チーズ職人の西山厚志さんが2017年に開いた工房で、併設された直売所には、週末の金曜と土曜、日曜・祝日のみの営業ながら、県内外からわざわざ西山さんのチーズを買い求めにくるお客様の車が店の前に並びます。

新利根チーズ工房の西山厚志さん。もともと千葉県の畜産試験場で働く研究員で、仕事として畜産に関わる中で、ヨーロッパで古代から続く文化のひとつであるチーズに魅了されて一念発起し、チーズ職人になる決意をした。
「新利根協同農学塾農場の放牧牛の生乳は、とくに熟成チーズこそ本領を発揮すると思っています。白酵母と醸造酵母によるさわやかでミルキーな『白霞』や、去年できあがったウォッシュタイプの『月利根』や『稲敷ラクレット 稲光』、稲光の失敗作からヒントを得て生まれたハードタイプの『暁富士』など商品数を徐々に増やしていけるようになりました」と西山さん。

直売所のショーケースを見ると、「 勝馬蹄かちばてい 」や「 月利根つきとね 」、「 暁富士《あかつきふじ》 」、「 黄昏富士たそがれふじ 」など、目を引くユニークな商品名のチーズが並んでいることに気がつきます。

商品名は、じつはこのエリアの地名から1字もらっているんです。地域に特化して商品を作りたいのと、まずはチーズをおもしろいと思ってもらう、反応してもらうということが大切なのかなとも思っています。あらゆる方法を使ってお客様にチーズに対して興味を持ってもらうことが必要なのかなと思っています

西山さんと藤川さんは、2019年に日本のチーズ工房が中心になり、国産チーズの製造技術向上や普及を目的に立ち上げた「一般社団法人日本チーズ協会」の理事で協会の設立メンバー。チーズの魅力をたくさんの人に届けたいという大局的な思いを同じくした同士であり、お互いの工房のチーズを食べあった仲でもあります。

藤川さんは、以前から西山さんの工房をたずねたいと考えていたといいます。「お一人で苦労していることを前々から聞いていてようやく工房を目にすることができました。上からではないですが、何年か前に食べた時より全体的にチーズがおいしくなっていて、感動しました」と藤川さん。日々チーズ作りに真摯に向き合い続けている西山さんの姿勢を、西山さんが作ったチーズのなかから受けとったようです。

新利根チーズ工房の工房内を見渡すと、整理整頓が行き届いていて衛生管理が徹底されている。
「酸凝固タイプの『白霞(しろがすみ)』に日本酒のような和のテイストを感じたり、刺激を受けました。今回は製造風景が見学できなかったので、次回また時間を作ってうかがいたいです」と藤川さん。
「場所や人手など制限があるなかチーズへの向き合い方がストイックで、それが味にも影響しているのがよく感じられました。職人らしいチーズやラインナップが素敵でした。また行きたい工房のひとつです」と関口さん。
左からフレッシュタイプの「新利根ブラン」、ウォッシュタイプの「稲敷ラクレット 稲光(いなびかり)」熟成期間:3カ月、ハードタイプの「黄昏富士(たそがれふじ)」熟成期間:7カ月と酒漬:1カ月、同じくハードタイプの「暁富士(あかつきふじ)」熟成期間:10カ月。

チームでまわれたことで移動時間も含めて濃厚な1日になった

5者5様、それぞれの違いが見えた工房めぐり

5軒の工房の見学を終えたCHEESE STANDのメンバー4人。茨城県から東京に戻る車中では、1日の振り返りや、メンバーが同じ時間を共有する産地めぐりの大切さ、チーズ工房の未来についてまで、話が広がりました。

今日は、いちチーズ職人として、工房のなかでの工夫とか、工房の作り方とかを見たいなっていう思いで来ました。すべての工房のみなさんにお会いしてみて、5者5様でみなさん考え方が違って、取り組み方も違う。すごく勉強になりました。

料理人の立場で加工品だったり、消費者目線でどれぐらいチーズが違うのかなっていうのを、社会科見学的な感じで見たいと思ってきました。

いろいろと食べ比べさせてもらうと、やっぱり違いが明確に出てきたのが興味深かったですね。5軒まとめてまわれたのは良かったなぁ。

料理だったら何で違うのかは、料理に対して知識があるので理由がつけやすいんですけど、チーズの製造の世界になると知らないことが多すぎて、何が違うのかわからない。自分の無知さをすごく感じました。でも、それがかえって「もっともっと知りたい!」という欲求もでてきて、今、料理人なのにチーズ作りたくなってます(笑)。

チーズの塩気についても、食べ比べることで味わいの感じ方の違いになっているのを改めて感じて、自分たちのチーズでも見直したいなと思いましたよね。

そうですよね。料理もそうなんですけど、塩味が強い方がミルク感の濃さだったりとか、口に残る余韻の時間も長くなるんですよね。塩分濃度は結構しっかりしていた方が、チーズとしてもいいんだなというのは感じました。

僕はチーズを作っている立場として、他の工房ではどうやって作っているのかなってのを見たいと思って来ました。

石岡鈴木牧場さんでは、当たり前のことなんですけど、やっぱりチーズは酪農という産業があってのものなんですよね。さらにその向こうに、土作りということがあることを鈴木さんの話を聞いて気付かされました。そういう循環の中にチーズ作りがあるんだということを再認識したのが一番大きかったです。

あと、藤川さんと関口さんがいうように、僕も塩加減でここまでミルクの印象を変えるんだなっていうのを改めて感じました。僕自身は割と塩味が攻め気味だと思っていますが、バランスを改めて考えてみたいなと思いました。

チーズ工房やチーズ職人さんは、CHEESE STAND以外では、個人的にうかがったことがある西山さん(新利根チーズ工房)しか知らなくて。それもあってチーズ職人は、言い方は悪いですけど変態的な職人で、突き詰めてやってるっていうイメージだったんです。

でも今回5軒の工房をまわらせてもらって、当たり前なんですがみんなそれぞれ違うんですよね。 第三セクターの事業で、まだ職人になりたてだっていう亀井さん(ひたちおおたチーズ工房)が中心になって作っていたりとか。

だけど亀井さんが作ったモッツァレラは、すごく完成していて、おいしかったんですよね。レシピってすごいんだろうなぁと。

そうそう。あとは、私自身として広報やPRとして関わりながら東京で商売をしていると、SNSで発信するとか、それこそECでオンラインを使って、日本中のお客様を相手にしているようなところがあったけど、それが当たり前ではないということにも気づきました。その県の中とか、土地の中でやっていくっていう答えもあるんですよね。

僕自身も、茨城県内で流通させる、地域で流通させるっていう考え方は僕の中には全然なかったから、地域に根ざすことを目指すということは、本当に一度考えてみたいなと思ったなぁ。

クリエイティブ脳になっているから決まるのが早い

今回CHEESE STANDのメンバーで来れたのも良かったなと思っています。

柳(柳平さん)が菌のことを質問したりとか、関口さんが料理の塩の質問していたのは、一緒に聞いていて、すげえ面白いなぁと思って。今日は残念ながら来れなかったスタッフも含めて、また遠足みたいな、社会科見学みたいなのをやりたいなと思いました。

いつもかなりの頻度でミーティングしたり会って話したりしているけど、こうやって1日ずっと一緒にいられたのも良かったよね。長い時間一緒にいるとポンポン普通に話ができるからさ。いつもミーティングで時間を取っていても、けっきょく情報共有だけで終わってしまうこともあるからね。

今日みたいに、みんなスイッチが入ってクリエイティブ脳になってるから、塩味のことについても「じゃあ、すぐに変えてみようよ」みたいに、移動の車のなかで意見言い合ってどんどんアクションできたからね。

みんな見てる方向とか価値観が似てるんですよ。だからそれが同じ目線で見たときにクリエイティブ、共有度が高いというか。同じものを見て感じているから、瞬時に動けたんだと思います。いいですよね、こういう時間は。

それと厨房の設備や道具を見させてもらえたのは勉強になった。

そうなんですね。レストランのキッチンって雑誌などでも共有されてるから、他のレストランのキッチンを見ても、「なんじゃこりゃ!」って驚くことってあまりないんですけど、チーズ工房は、結構違いがあるんですね。

それって、横の情報がそんなに共有されてないからですか?

日本のチーズ業界は、横のつながりはあると思いますよ。ただみんな山奥とか北海道に工房を開くことが多いから、交流の機会が少ないですよね。それこそ年に1度のコンテストのときに顔を合わせるとかになるんですよね。

でも、職人同士は、なんだかんだ仲がいいよね。今回も、みなさん工房内も全部見せてくれましたし。

情報もオープンだし、「自分たちのものだから教えない!」ってこともあまりないかな。

きっとそれは、自分たちがそうだったからなんでしょうね。チーズっていう外国の文化を日本でやろうとしたときに、みんなでやっていこうという気持ちがあったからなんだと思いますよ。

でも一方で、チーズ工房を作るのは、みんな一生に一回だから情報が蓄積されにくいというのもあると思います。そのあたりを担う学校があったらいいと思うんです、失敗学がきちんと蓄積されるような。やりたい人が相談に行ったときに窓口になってくれる場所っていうのかな。

チーズ職人がチーズ工房を開きたいといっても、今回のようにやりたいチーズ工房像や規模感が全然違う。それを今のところは、工房機器メーカーだったり知り合いのチーズ職人に聞くだけでは、やっぱり情報が少ないと思うんです。

そういう点では、森のシェーブル館さんの新工房がどうなるのか知りたいよね。30年という圧倒的な経験や知識の蓄積を、新工房でどう表現するのか。次また茨城県のチーズ工房をまわる楽しみが増えたよね! 今日はお疲れさまでした。

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次回の更新は、3月8日(水)。茨城県産ジビエの新しいプロジェクトについて紹介します。

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Supported by 茨城食彩提案会開催事業
Direction by Megumi Fujita
Text by Ichiro Erokumae
Photos by Ichiro Erokumae

【問い合わせ先】
茨城県営業戦略部東京渉外局県産品販売促進チーム
Tel:03-5492-5411(担当:澤幡・大町)

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