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本橋健一郎さん、naoさん|届いた野菜をみて「これは作品なんだ」と感じました
レストランでは、毎月変わる季節のメニュー、新しいコース料理が生まれ、食べる私たちを魅了し続けます。その時ふと「料理人さんは、どうやって新しい料理を考えているんだろう?」と不思議に思うことはありませんか?
料理人の皆さんに聞くと、古典的な料理本からインスピレーションを得る場合もあれば、旬の食材や気候などを考えていくことで料理が思い浮かぶこともあるそうです。その源はさまざまあるなかで、「生産地での体験」も新しい料理が生まれる瞬間でもあるといいます。
前回の「シェフと茨城」でもレポートしたように、3月末に茨城県南部の生産地を回った東京・外苑前のイノベーティブレストラン「JULIA(ジュリア)」も、生産地ツアーから帰ってきて生まれた新しい料理が「JULIAとしての新しい挑戦になった」といいます。
野菜を主役にしたコンセプトシリーズ
「Farmer's Artworks」の誕生
外苑前駅から徒歩5分の静かな路地に店を構えるJULIAは、2012年に茨城県つくば市で創業した「本橋ワイン食堂」がルーツです。茨城県守谷市出身のオーナーでソムリエの本橋健一郎さんと、シェフで本橋さんの妻naoさん(福岡県出身)が始めた店は、2017年に恵比寿に移転し「JULIA」として再スタート。翌年一時休店しアメリカ・ニューヨークでポップアップレストランを開くなど積極的に”課外活動”をすると、翌2019年に現在地に移転してきました。
本橋ワイン食堂時代から「OMAKASE」と題した毎月内容が変わるコース料理とワインペアリングを提供するスタイルを貫いています。本橋さんが選ぶワインに合わせて、naoさんが料理を考案するという独自のスタイルは、移転をするたびに洗練され、進化を続けています。
まさにイノベーティブ(革新的)と呼ぶにふさわしいJULIAのOMAKASEに、2021年3月から加わったコンセプトがあります。「Farmer's Artworks」と呼ばれるシリーズです。
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「OMAKASEの中に毎月同じテーマで内容が変わる料理、そこから四季が見えてくるようなシリーズができないかな、と話していたんです。それならお皿を額縁に見立てて、その上にさまざまな調理を施した季節の野菜で飾るようなお料理を始めたんです」
春には新芽の野菜や山菜、晩春から初夏にかけては葉物、夏は水分の多い夏野菜、秋から冬にかけてはキノコや根菜が出てくる。野菜は多くのお客様が季節を連想するので移り変わる季節を表現しやすい食材。それを一つのコンセプトで毎月表現していこうというのが「Farmer's Artworks」です。
この「Farmer's Artworks」が、茨城県の生産地ツアーから帰ってきてから変わってきたと、naoさんは言います。
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「先月のFarmer's Artworksは、花ズッキーニのフリットをメインに、アスパラガスや芽キャベツといったいろいろな野菜をグリルなどを盛り付けていました。4月からは生産地ツアーでお会いしたシモタファームさんの野菜やハーブを使わせてもらっていて感じるのは、とにかく野菜がすごくきれいに箱に詰められて送られてくることなんです。届いた箱を空けると『わぁ』と思わず声を上げてしまうくらい、すごくきれいなんですよ」
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「霜多さんの畑はいい意味でワイルド。一緒に生産地ツアーに行った料理人やサービスのプロたちも『こういうのを料理に使いたい!』と話していて、みんなそのワイルドさの中にある生命力を感じていたんだと思います。あのとき見た野菜やハーブたちが、生命力はそのままに美しい姿でJULIAに届いた。それを見て、これは霜多さんたちご家族の作品なんだ、と感じたんです。それなら僕たちは、その作品をそのままお皿の上にのせるだけでいいんじゃないかとシェフと話して、シンプルでストレートな料理が生まれました」
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Farmer's Artworks
(5月のOMAKASEより)
霜多さんの野菜に出会ったことで
10年目の「今ならできる」と感じた
「感動したのはセルバチコ(ルッコラ)の苦味と青さ、とにかく味が濃い。強い、力強いんです」とnaoさんは、シモタファームの野菜ついて目を輝かせて話してくれます。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51599358/picture_pc_5eceb2c7c232851fffd821c8d64920fe.jpg?width=1200)
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セルバチコにディルやセージの花といったシモタファームのハーブや野菜、フルーツは、同じくシモタファームのケールを使ったジェノベーゼとオレンジのビネグレットだけで和えています。「霜多さんの野菜は、しっかりと素材の味がたっているので塩をする必要がないんです」とnaoさん。
印象的な白いイチゴもシモタファームで見てきた茨城県のブランドイチゴ「いばらキッス」。真っ赤に色づく前の白い未熟なものを使っています。
![JULIA_コメントバナー-2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51675383/picture_pc_a67e8a30ec61efd684d7b788513661da.png?width=1200)
「料理に使うなら、私は甘いイチゴではなくて、酸味があった方が存在が活きてくるんじゃないかなと思っていました。ちょうど生産地ツアーの時に、畑で白いイチゴを見つけたので実際に食べてみたら、みずみずしい野菜のような食感と青い香りを感じて、その場で仕入れたいと相談しました。」
![画像16](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51655772/picture_pc_ea55fe4c71de7ba2fe88a1c5c17a6de2.jpg?width=1200)
![画像17](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51655788/picture_pc_58bb8c6ce4b583d99f37f274e2eea50d.jpg?width=1200)
たしかに、甘味がしっかりあるいばらキッスだからこそ、未熟でも酸味だけが際立つことなく、甘味がバランスをとっている。ただすっぱいだけではないのです。
ケールのジェノベーゼを”下地”代わりに皿に塗り、その上に和えたハーブと白のいばらキッスを盛り付けたら、エスプーマで作ったオレンジと白ワインヴィネガーのムース状の泡を中央に注ぎ出します。
こうして5月の「Farmer's Artworks」は、シモタファームの野菜とハーブ尽くしのひと皿になりました。
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「霜多さんの野菜でなければ、こうした仕立てにはならなかったと思います。ある意味で、野菜をただ盛りつけたサラダなので、お客様によっては『葉っぱを出すの?』と思われる方もいると思います。私たちも、まだ不安で、お客様は満足してくださるかなというのが正直な気持ちです。だけど、実際に畑に行って見てきて、この仕立てで出すに値する素材だと思ったし、私たちにとってもストーリーもある。自分が語れる野菜なら伝わると思っています」
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「霜多さんの畑でハーブをちぎって食べたときのおいしさは忘れられないですよね。『素材が命』とよくいわれるけど、少し手を掛け過ぎているんじゃないかな、と思うお料理に出会うときもあります。どこまで素材に手を加えるのかについては、ずっとレストラン人が向き合うことなのかもしれないけど、手をかけないシンプルな料理を出すのは、やっぱり説得力が必要だと思うんです。たとえば、今回のシェフの料理を調理師専門学校から出たばっかりの料理人が出したら、『もうちょっと手をかけた方がいいんじゃない?』と多くの人が言うと思うんです。それは、作った人の問題ではなくて、あくまで受け取る側の心の問題。そういう中で、僕たちがつくばでお店を始めてからこうして都内でもできるようになって10年。今ならこうやって出せるんじゃないかと思ったんです」(本橋さん)
東京に移って5年、外苑前に移転して2年。「本橋さんたちは、茨城県の代表だよ」と、変わらず来店してくれるつくば時代のお客様もいる。そして、新型コロナウイルスの感染拡大によって時短営業や自粛要請を受けながら営業をする中でも、変わらずJULIAに足を運び、支えてくれるお客様の存在に気付けたことも、シンプルでストレートな料理を出す後押しになったのではないでしょうか。
「Farmer's Artworks」以外でもシモタファームの野菜やハーブがコースで大活躍しています。4月のOMAKASEのメインの鳩の料理でも、シモタファームのケールやセルバチコ、水菜が使われていました。
![画像8](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51648667/picture_pc_6233f7c2cc7d8873e67bc27ab9c7cda2.jpg?width=1200)
自分たちにとって
「ストーリーのある日本酒」に出会えた
JULIAのOMAKASEの中で、唯一メニューが決まっているのが、プレデセールの「ニューヨークチーズケーキのアイス仕立て」です。JULIAのEC商品として発売後即完売になる人気のデザート「JULIAのニューヨークチーズケーキ」をレストラン用に再構築したものです。
このデザートに4月のOMAKASEから合わせているのは、アルコールは稲葉酒造の「男女川(みなのがわ)」の純米吟醸酒、ノンアルコールは稲葉酒造の酒粕で作った自家製の甘酒です。
![画像9](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51654118/picture_pc_fa8237b8dc73bb30f7bd89adefd9b8b0.jpg?width=1200)
料理にあうアルコール(またはノンアルコール)が一皿ずつついてくるペアリングスタイルのJULIAでは、これまでニューヨークチーズケーキのアイス仕立てには、国産のスパークリングワインを合わせていました。
![JULIA_コメントバナー-22](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51675420/picture_pc_c2acfa563963f12ab04c5d47febc8138.png?width=1200)
「実は、僕の日本酒デビューは遅くて、ここ3年くらいなんです。最近になって、お寿司屋さんなどで純米酒を飲んでいると、やっぱりワインに比べて甘いんですよね。最初は、どうも料理を合わせるイメージが湧かなかったんです。それよりも純米酒はアイスクリームに合うなって感じていました。それから、いろいろな場面で日本酒を飲んでいくようになるとその度に『これチーズケーキに合いそうだな』と思うようになって。そうしたら、チーズケーキの味見をしていると今度は『これは日本酒に合いそうだな』と感じている自分がいて(笑)。なんだか、お互いが歩み寄ってくるように、チーズケーキと日本酒の組み合わせをしたいと思うようになったんです」
しかし、人気の蔵元の貴重な銘柄をJULIAのチーズケーキのアイスに合わせても、自分自身が出す意味を見つけられない。故郷の茨城県は、関東で最も酒蔵の多い県でしたが、自分の目で見たり、実際に蔵元や杜氏に会ったことないまま形だけ茨城県のお酒を使うくらいなら、やらない方がいいと本橋さんは考えていました。
そんな中、生産地ツアーで筑波山麓に蔵をもつ稲葉酒造を訪れ、江戸時代末期から続く蔵の歴史や「茨城・筑波の水、米、麹を使ったテロワールを大切にした酒造りをしたい」という杜氏で六代目の蔵元の稲葉伸子さんや伸子さんの夫で蔵の代表取締役でもある芳貴さんたちの思いに触れます。
![画像14](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51655709/picture_pc_79ade30421e5ca9c43289e3195e40d29.jpg?width=1200)
![画像15](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51655748/picture_pc_5bbc17185ef1b23e426f2f768cc4ec87.jpg?width=1200)
![JULIA_コメントバナー-22](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51675441/picture_pc_edb720546d1f85eca87e4c7ec0f9b4e0.png?width=1200)
「あの場でいくつか飲ませていただいた中で、一番香りがはっきりしていたのが男女川の純米吟醸酒でした。JULIAのようなペアリングは、ひとくちとひとくちが勝負なんですね。食べながら飲んで、飲んでから食べてというようにいったりきたりするスタイルではないので、わかりやすさも必要なんです。バナナのような香りを感じて、飲んだ瞬間に『これにする!』と決めたんです」
ニューヨークチーズケーキのアイス仕立てのノンアルコールドリンクも、稲葉酒造ゆかりのメニューを考案。稲葉酒造の酒粕を使った自家製の甘酒をあわせます。
![画像11](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51655592/picture_pc_3e00ff379e31382e47bc647fb336afcd.jpg?width=1200)
「男女川の純米吟醸酒にあったバナナの香りを甘酒にも加えたくって、クローブを漬け込んでいるんです」と本橋さん。ひと口飲むと、バナナの香りを感じるおもしろいノンアルコールドリンクです。
![JULIA_コメントバナー-22](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51675449/picture_pc_33e8cfc3058610d3c17cdd2296aee586.png?width=1200)
「稲葉さんの酒粕は、プレッシャーをかけてしっかり絞り切ったものでじゃないんです。どちらかというと『まだ絞れるじゃないの?』というくらい、しっとりしていて、濃くてクリーミー、独特なテクスチャーもあります。だから甘酒にしてもおいしいんです」
僕らはサッカーチーム。プレイヤーだけが
スタジアムを作っているんじゃない
3月末の茨城県の生産地ツアーを経て、さまざまな変化が起こっているJULIAでは、こうした状況を2人は「JULIAのチームメイトが増えたと感じている」と表現します。
![JULIA_コメントバナー-2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51675475/picture_pc_dd0af0fbc4e714a0df9f747c7d565bf4.png?width=1200)
「茨城を回って、本当に良かったですよ。料理にあるストーリーを自分の言葉でお客様に伝えられるようになったし、説得力がある料理が作れるようになったと思っています」
![JULIA_コメントバナー-22](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51675512/picture_pc_fc897f704b3a891570d7e2f6deeeb396.png?width=1200)
「サッカーチームでたとえるなら、僕たち2人は試合に出ているだけのプレイヤー。サッカーを俯瞰してみるとスパイクを磨いて準備してくれる人や、グランドを整備してくれる人がいる。スタジアムの入り口で入場券をもぐ人もチームの一員だと思うんです。茨城から帰ってきて、シェフが生産者の方と楽しそうに『そうなのぉ?!』と電話で話しているのを横で聞いていると、チームメイトが増えたように感じています」
6月下旬には、再び茨城県の生産地を、友人の飲食店のプロたちとめぐる予定だという本橋さんとnaoさん。夏には、どんなひと皿が生まれるのか。JULIAから目が離せません。
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次回の更新は、5/26(水)。稲敷市で放牧牛の牛乳で熟成チーズを作る「新利根チーズ工房」の西山厚志さんに登場していただきます。どうぞお楽しみに!
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Supported by 茨城食彩提案会開催事業
Direction by Megumi Fujita
Edit & Text by Ichiro Erokumae
Photos by Ichiro Erokumae
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