湯浅一生研究所|霞ヶ浦のシラウオには、細いパスタがおすすめな理由
2020年11月13日、カルチャーとフードの発信地・恵比寿に新しいイタリアン・レストランがオープンしました。シェフ本人のお名前を冠した「湯浅一生研究所」。駅から徒歩5分のビルには、地下1階にあるお店の案内はどこにもありません。隠れ家というよりも「秘密基地」と呼びたくなるようなドキドキする感覚。今話題のレストランです。
シェフの湯浅一生さんは、イタリア中部のトスカーナ州や北部のエミリア・ロマーニャ州などで修業をしながら、イタリア全土の郷土料理を学んできた根っからのイタリアンの料理人です。
以前の店では「イタリアにない食材は使わない」と決めていたが、新しいお店では、「日本の食材を使ったイタリアン」をテーマに、日本各地の生産者さんが育てた食材を使ったコース料理を提供しています。
オープンする前におよそ1年かけて、日本の10の地域を訪れた湯浅さんは、2020年の10月末に参加した茨城県の生産地ツアーは、発見が多かったと振り返ります。
料理人は無意識に良い食材と比較をしている
茨城県のお隣、千葉県生まれなのですが、実は茨城県に対して食材のイメージは全くなかったんです。霞ケ浦に行っても、「そうか、霞ヶ浦は茨城にあったっけな」くらい疎くて。本当に、ごめんなさい。
でも強いイメージがなかったことで、かえって産地ツアーではフックのある食材にたくさん出会えたように思います。霞ケ浦のシラウオや七会きのこセンターなど、「茨城県で作っていたんだ!」というような意外な食材に出会い、料理してみたいなぁと思うものが多かったです。
料理人にとって「料理してみたい」って実はとても大事です。
産地に行っても「料理してみたい」と思うような食材に出会えることは意外と少ないものです。料理人は、知らないうちに出会った食材を何かと比較している。いいものを使いたいという本能をもっているともいえるので、それまで自分が蓄積してきたデータにない食材に出会えると「料理してみたい」と反応するんでしょうね。
そういう意味では、霞ヶ浦のシラウオ、七会きのこセンターのハナビラタケとアワビダケ、飯沼栗は、現地で購入したりすぐに取り寄せて料理をしたので、僕にとってはフックのある食材だったと思います。
なかでも一番驚いたのは霞ヶ浦のシラウオでした。透明でピンと背筋が伸びた「霞ヶ浦のダイヤモンド」の名にふさわしい姿ですよね。
シラウオは鮮度が命、漁師がこだわる美しさ
霞ヶ浦には、シラウオ、ワカサギをはじめ、現在約50種類もの魚が棲んでいます。
水揚げされたばかりのシラウオは、驚くほど透明で、泥臭さや生臭みがなく、きれいな味です。
シラウオとワカサギの漁期は、夏から始まり、その年いっぱい。動力船が網を曳く「トロール」という漁法で水揚げされます。シラウオは鮮度が命ということもあって、水揚げされてから30分以内に船上で泥をとって氷冷します。こうすることで、キラキラと輝く透明感をもったままのシラウオになるのです。
東京から車で90分という立地を活かして、漁期には、その日の朝に獲れたものが、都内に夕方に届きます。この鮮度の良さは、霞ヶ浦産のシラウオやワカサギの最大の魅力といえます。
霞ヶ浦産シラウオのタリオリーニ
取り寄せさせてもらったシラウオは、生でも食べてみたのですが、僕はやっぱり火を入れたふわっとした食感が気に入りました。シラウオのホロホロとほどけるような身質を楽しんでもらいたいと思って、トマトとアサリ、シラウオのパスタにしてみました。
シラウオは沸騰させた塩水で、さっと下茹でします。ここでわずかにあるシラウオの生臭みを取り除くためでもあります。
ニンニク1片にミニトマト5個をオリーブオイルで炒めたところに、アサリの出汁、牛のブイヨンを加えます。アサリの出汁は、水出しした昆布の出汁でとって旨味を重ねていきます。ご家庭ではアサリの出汁は水だけでとってもいいと思います。
ソースができたらパスタを加えて和え、バターを加えます。
パスタは、タリオリーニという細い手打ちパスタにしました。生地には青のりを加えています。霞ヶ浦に着いたときに苔っぽい香りを感じたんです。そのニュアンスをパスタで感じてもらいたいですね。
シラウオを加えるのは最後の最後。たっぷり20gを鍋に加えてさっと和え、オリーブオイルを加えて皿に盛り付けます。刻んだシブレットと、七会きのこセンターのアワビダケパウダー(下の写真)、さらにスライスしたカラスミを飾って完成です。
コースのなかの1品なので、パスタは30ℊと少なめ。そのかわり塩で味をつけるというよりは、アサリのコハク酸、トマトと昆布のグルタミン酸、シラウオと牛肉のイノシン酸、アワビタケのグアニル酸という4つの旨味成分があわさった「旨味の相乗効果」による一口で満足していただけるようなレストランらしいパスタに仕上げました。
パスタをタリオリーニにしたのは、シラウオの食感を活かしたかったから。乾麺でアルデンテのパスタだと、せっかくのシラウオのふっくらとした食感が消えてしまいます。シラウオの食感の後ろにパスタがいてほしいので、手打ちの細いパスタ、タリオリーニにしています。
ご家庭で作られる場合は、太さ1.4㎜くらいのフェデリーニという細めのロングパスタを選んでみてください!
栗を料理に使ってこなかったことに気づく
湯浅シェフが感じたシラウオのフワフワとした食感が伝わってくる旨味たっぷりのパスタは、1月のコースのなかで登場する予定です。ほかにも取り寄せた食材をどのように料理したのでしょうか? とても気になりますよね。
飯沼栗は届いてすぐ渋皮煮にしました。大きくて形がいいので、そのまま食べるのがやっぱりいいですよね。
栗自体は、イタリアの名産でもあるので、これまでも使っていたのですが、たいていはデザート。改めて今回「栗を料理に使う」ことについてまったく考えたことすらなかったことに気づき、肉の煮込み料理などに使ったりと、自分自身に新しい課題をいただいたいい機会だったと思っています。
飯沼栗のシーズンは終わってしまったのですが、来年の時期になったら栗のニョッキやラビオリなどにも挑戦してみたいですね。
七会きのこセンターのハナビラタケは、産地で食べて、食感がものすごくいいと感じました。まずはグリルして食べましたが、他にも冷凍してからグリルしたり、そのまま生で食べたりなど試した中で、もっとも気に入ったのが、鶏のスープで炊いたひと皿です(上の写真)。
2日間ゆっくりと炊いた透明な鶏のスープとハナビラタケの食感がよく合い、コースの1品としてもとても評判が良かったです。
霞ヶ浦にはワカサギもあります。こちらはやっぱりフリットにするのが一番おいしかったです(上の写真)。ワカサギの魚醤でマリネしてから揚げています。ワカサギは内臓のほろ苦さをお伝えしたいので、まるごと食べられるひと皿にするといいと思います。
食材との出会いを楽しみに料理をし続ける
「茨城県のことを知らな過ぎた」という湯浅シェフ。これまで、どちらかというと東京から遠い場所の食材に気持ちが向かっていたが、これからは足元にある近い食材にも積極的に目を向けていきたいといいます。
「料理のジャンルの壁がなくなって、技術の共有も生まれてきました。いい食材、いい技術、いい調味料はどんどん取り入れていこうという時代です」と湯浅シェフ。イタリア料理だからといって、イタリアの食材だけしか使わないというわけではなく、柔軟によい食材を使っていきたいといいます。
「そのためにも、やっぱりフックある、新しい食材との出会いは大切です。前回行けなかった茨城県の他の地域にも行ってみたいと思っています」
オープンしてわずか3カ月、コロナ禍のなかで苦しくないはずはない。それでも湯浅さんは明るく前を見つめ、料理を作り続ける情熱を滾らせ続けていました。
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湯浅一生研究所
東京都渋谷区恵比寿西2-7-10 えびす第3 B1F
☎03-6712-7713
営業時間:18:00~24:00(20:30LO)、20:30以降はバー利用可能(要予約)
※都の要請により営業時間が変更になる可能性があります。
定休日:不定休
コース:15,000円、ワインペアリング ハーフ10,000円、フル25,000円
※消費税・サービス料10%別
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次回の更新は、1月27日(水)。モダンベトナム料理「An-Di」の内藤千博 シェフが、西崎ファームのかすみ鴨のひと皿を出されているという情報を聞きつけました!さっそく、取材にいってきます!
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Edit & Text by Ichiro Erokumae
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