かすみ鴨|シェフと一緒に育てていける養鴨農家でありたい
料理人さんの好みを聞きながら一緒に鴨を育てていきたいんです――。
「西崎ファーム」の清水司さんは、30年の歴史をもつ西崎ファームを先代の西崎敏和さんから、2020年5月に引き継いだばかり。28歳の若きオーナーファーマーです。「シェフと茨城」で2020年10月末に養鴨場を訪問した際、「自分たちはこうだ!というのではなく、プロの料理人の方々の意見に寄り添っていきたい」と、新しくオーナーになった抱負をこのように話していました。
非人道的な養鶏環境に心を痛め「放し飼い」に
東京から常磐自動車に入り、千代田石岡ICを降りて30分ほど。筑波山の東麓で、なだらかな傾斜をいかした土地にある西崎ファームの養鴨場には、およそ4000羽の鴨が放し飼いされています。
3ヘクタール(サッカーコート約2面分)の農場の中は、大きなゲージで区分けされていて、その中で鴨たちは元気に走り回ったり、のんびり水浴びをしたりと、自由きままに暮らしているのが特徴です。
「ウィンドウレス鶏舎」という言葉を聞いたことがありますでしょうか? 文字通り、「窓のない鶏舎」という意味で、そこで飼育される鶏たちは、孵化してから一度も外に出ずに育ち、出荷される日に初めて鶏舎から出て、太陽の光を知ります。
こうした養鶏(鴨)方法に疑問を感じた先代の西崎さんが、鴨には自由にのびのびと過ごしてもらいたいと、放し飼いを始めたのだといいます。
「鴨がいかにストレスなく、健康に育っていけるか。そのためには、狭い部屋に閉じ込められて自由に食事もできないような環境で育てば、その影響が肉の味に出てしまうのです」と、清水さんはいいます。
鴨が健康であれば、余計な投薬も必要ありません。西崎ファームでは、無投薬で鴨を育てることができます。「鴨肉の味は、育った環境で決まる」と先代の西崎敏和さんが大切にする西崎ファームの哲学を、清水さんは引き続き大切に守っているのです。
そのこだわりは、養鴨場に入ってすぐにシェフたちにも伝わります。養鶏場独特の匂いが少なく、叫ぶような鴨の鳴き声も聞こえません。気持ちよく鴨たちが育っていることが、わかるからです。
「なんてかわいい鴨たちだろう」。もちろん、シェフたちにとって鴨は食材なのですが、それ以上に愛玩のまなざしを向けていたのが印象的でした。
鴨たちがイキイキしていたのが何より印象的でした。水浴びしている子から、餌をモグモグ食べる子、気持ちよさそうに昼寝をする子、一羽として体調が悪そうな子がいなかったのは驚きです。食べている餌の美味しさはもちろん、あの環境がゆえにすくすく育っていくんだろうなと納得感がありました。
鴨の飼育過程を見学するのは、今回が初めてだったのでとても興味深かったです。エサや飼育の仕方を直接聞けたのが良い経験でした。
人間がたべてもおいしい鴨たちのエサ
西崎ファームでは、ヒナのふ化から屠畜、加工までを一貫で行っています。飼育期間は、通常49日(7週)で出荷されるところを90日間と長期間にわたって飼育します。長期飼育を行うことで肉質が強く、味が強い鴨に仕上がるからです。もちろん、その分コストがかかりますが、価格ではなく、あくまで「味」を重視しているといいます。
育てる鴨は2種類。真鴨をルーツに改良されたイギリスの品種チェリバレーの「かすみ鴨」(下写真)が中心で、フォアグラ用の鴨としても使われるバルバリー品種の「つくば鴨」(期間限定)です。
飼料は、近隣で生産される飼料米や、ポストハーベスト農薬を使用しないトウモロコシ、保存料を添加していない魚粉、製菓製造過程で出る大豆のカス、落花生などを自家配合して使用しています。
「人間が食べても安心なんです」と説明する清水さんは、躊躇なく自家配合飼料を口に運びます。「食材の味は、食べたものの味」であることを知っているシェフたちも、鴨の肉の味を確かめるかのように配合飼料を味わいます。「甘味があっておいしい」とシェフたちは、素直な感想をもらしていました。
ヒナの時だけは屋内ですが、生後およそ30日ほどで400羽が1グループになって囲いの中で放し飼いされます。大きくなるごとに養鴨場内を3回引っ越ししていくのも、その都度ゲージ内を清掃して、次に来る鴨たちが病気にならないように清潔に保つために養鴨農家の大事な仕事です。
ちなみに、人間が食べられる自家配合飼料や無投薬での飼育をしているため、糞の臭いも少なく、土の汚染も少なく、環境負荷を抑えたサステナブルな養鴨場であるともいえます。
シェフたちとの交流から新しいニーズを探る
筑波大学で農業経営学などを学んだ清水さんは、農業をしながら田舎で魅力的な仕事をしたいという夢を持ちますが、ゼロからスタートさせる難しさを感じ、卒業後は企業に就職し、淡路島で社会人として農作業をしながら独立の勉強に努めます。一年ほど務めた後に、後継者を探していた西崎さんに誘われ、西崎ファームに転職。3年間、西崎さんの元で養鴨を学び、事業を引き継ぎました。
「すでに西崎ファームのブランドがある中でやらせてもらえるのはありがたいです。少しずつですが、養鴨以外のことも広げていけたらと考えています」と自分らしい、事業の継続を目指しています。
ひとつはオンラインショップの開設です。
コロナ禍で業務用の出荷が止ってしまった中で、加工まで一貫した設備をもつ強みを活かして、ステイホーム需要の供給にシフトチェンジ。若い柔軟な発想によって、即座に対応できたといいます。
さらに、シェフたちとの会話のなかでは、エトフェの鴨についての質問がありました。エトフェとは、フランスの高級ブランド鴨、シャラン鴨などで行われる屠畜方法で、窒息死(エトフェ)させることで、血液が鴨の肉の中にとどまり、より風味が高まるとされています。
「屠殺施設を持つ西崎ファームなら、エトフェの鴨も出荷できます」と清水さん。さらに、内臓も適切に処理ができるため、中国料理では貴重な食材である鴨舌も扱えるといいます。
エトフェが手に入るのが魅力的。放し飼いという条件下での血の味がどのように出るのか、ぜひ他のものと食べ比べしてみたいです。
飼育環境、飼料にもこだわりをもってやっており、安心して使える食材だと思いました。鴨舌など中華でも使っていけるとおもいます。
料理人さんの好みを聞きながら一緒に鴨を育てていきたいんです――。
シェフと生産者が一緒になって作り上げた鴨の誕生が、いまから楽しみでなりません。
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次回の更新は、1月13日(水)。「ラチュレ」の室田拓人シェフが磯崎漁協のエゾアワビとシラスを使った新メニューを作られたということで、取材に行ってきます!
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Edit & Text by Ichiro Erokumae
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