O2|笠間焼の作家Keicondoさんの器が、料理をシンプルにしてくれた
常磐自動車道の友部JCTから北関東自動車道に入り、友部ICで降りて10分ほど。「都心から一番近いやきものの里」といわれる笠間には、そのキャッチフレーズ通り、都心から90分ほどで辿り着くことができます。
天保年間(1830~44年)に、笠間の山口勘兵衛が日用雑器を作ったのが笠間焼の始まりとされています。明治時代に、花瓶、置き物などもつくるようになって盛んとなり、近年では1982年から始まった「陶炎祭(ひまつり)」が毎年ゴールデンウィーク期間中に開催され、7日間の来場者は50万人を超えています。
2020年6月19日には、お隣栃木県の陶器の里・益子町と笠間市が共同で申請した日本遺産「かさましこ~兄弟産地が紡ぐ‘‘焼き物語”~」が認定になるなど、注目を集めています。
やきものの里・笠間に頻繁に訪れているのが、東京・清澄白河のモダンチャイニーズ「O2(オーツ―)」のオーナーシェフの大津光太郎さんです。笠間にアトリエをもつ陶芸家Keicondoさんに会うためです。
実り豊かな茨城をイメージさせる黄金色の器
大津さんは、日本を代表する中国料理人のひとり脇屋友詞さんのレストラン「トゥーランドット臥龍居」に15年に務めた後、2018年3月、36歳で独立しました。独立にあたって考えたのは「中国料理っぽくない」ことだったといいます。
O2の店内に入ると、モダンなフレンチレストランのようでもあるし、料理も美しく盛り付けられ、中国料理のイメージはありません。3時間、じっくり火を入れた牛ほほ肉を、最後に豆鼓のソースでサッと煮込んだ「牛ほほ肉の豆鼓煮込み」(下の写真)は、さながらフランス料理のようです。
器を見ても、白磁に青い釉薬で絵柄がほどこされた陶磁器の中国料理のイメージはなく、土の力強いニュアンスを宿したモノトーンの陶器を使っています。「個性がある器を使いたかった」という大津さんが出会ったのが、Keicondoさんの器でした。
大津さんとKeicondoさんとの出会いは、大津さんが独立準備中だった2017年12月のこと。知人のデザイナーの紹介で、Keicondoさんと同じく笠間の陶芸家・船串篤司さんが恵比寿で開催した二人展を訪ねたときのこと。「豊かに実った田畑が広がる大地をイメージさせる黄金色の器、そしてなにより、Keiさんの人柄にあっという間に惹かれてしまったんです」と当時を振り返ります。
「もっと話をしたい」と大津さんは、1カ月も経たないうちに笠間のアトリエを訪ねます。
「もともと器の雰囲気を統一したいと思っていたので、Keiさんからもっと買わせてもらいたかったのですが、オープンに向けてお金があまりなくて。まずは最初の前菜用の3つの器(下の3つの写真)を4枚ずつ買わせてもらったのです」
特に木彫りのような質感をもつ、Keicondoさんの代名詞ともいえる黄色のプレート(上の写真)は、「緑のお野菜を盛りたい」というイメージがすぐに浮かんだといいます。
「Keiさんの器って、1枚1枚違うんです。普通の製造業だったらダメなことなんですけど、その1枚1枚個性があるというのがKeiさんらしくていいと思うんです。だから、同じモデルの器でも僕のなかでのお気に入りもあったりするんですよ」
実際黄色のプレートは、ヤングコーンとエビのココナッツカレー味の前菜を盛って使い始めたそうで、そのイメージが強すぎて別の料理では使わなくなったほど。今でも夏のヤングコーンの時期にしか使わないプレートになっています。
「牛ほほ肉の豆鼓煮込み」で使っている白い器は、この料理のためにKeicondoさんに作ってもらった専用の器だそうです。
こうして始まった料理人の大津さんと陶芸家のKeicondoさんの交流は続き、今ではO2のオリジナルの器もお願いするなど、店のほぼすべての器や皿がKeicondoさんのものになっています。
器から、料理を作る刺激を受ける
「Keiさんの器を使うようになって、余計なことをしなくなったように思います。すこし見た目がさびしいから、食材をひとつ加えようみたいな本来必要ないものを置いてしまうこともあるんですが、器がその役目を担ってくれるから、料理がシンプルになったように思います」
「料理をシンプルにさせる」ということは、実はKeicondoさん自身も器を制作する上で大事にしていることでもあります。あくまで料理がメイン、器に盛ることで素材がよく見えるようになるのが一番いいということをよく話しています。作家の顔が見える器ではなく、素材や料理を支える器。茹でたてのトウモロコシやソラマメだけで十分な器を作りたいと、Keicondoさんはよく話しています。
「新しい器をお願いしにKeiさんのアトリエに通っていたんです。最近では友人の料理人たちと一緒にアトリエ訪問をかねてBBQをしに行ったりしていたら、茨城のことが気になるようになって。メディアで『笠間』って言葉を聞くと嬉しくなっちゃいます(笑)」
「Keiさんの器は、笠間焼だから好きになったというわけでもないですし、遠くにいても、アトリエに器を買いに行ったと思うんです。Keiさんだから惚れた。だから、創作意欲を高めてくれるKeiさんとの関係を僕は大事にしています。Keiさんと出会えたことで、茨城県のことを知り引き出しを増やしてもらえたのは、本当にありがたいことだと思っています」
食材と料理人の関係だけでなく、そこに陶芸家が加わってお互いが支え合っていくことができるのは茨城県の強み。レストランは食材以外にもたくさんの文化が重なりあう場所であることを考えると、食材と器だけではない、また新しい関係が生まれる可能性を持っています。
大津さんとKeicondoさんから始まったつながりが、今後どのように広がっていくのか、楽しみでなりません。
O2(オーツ―)
東京都江東区三好2-15-12
☎03-6458-8988
営業時間:18:00~23:00(L.O.)
※都の要請により営業時間が変更になる可能性があります。
定休日:月曜休み、ほか不定休あり
料金:アラカルトのほか5000円のコース(5皿)あり
Keicondo(ケイコンドウ)
1981年、茨城県笠間市生まれ。茨城県窯業指導所(現・茨城県立笠間陶芸大学校)に入所し陶芸を学ぶ。卒業後は、JICAの海外派遣に参加し、南米ボリビアで陶芸指導を行う。帰国後、28歳でアトリエを開き、独立した。
Instagram:@keicondo
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次回の更新は、2月10日(水)。茨城県出身の気鋭シェフ、「サーモン・アンド・トラウト」の中村拓登シェフと「ahill azabu」の大井健司シェフの茨城県対談です。どうぞお楽しみに!
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Edit & Text by Ichiro Erokumae
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