つくばワイナリー|風光明媚な筑波山の麓で、土地にあったワインをつくる
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つくばワイナリー|風光明媚な筑波山の麓で、土地にあったワインをつくる

筑波山の南麓、ローカルな町並みから山裾の方に車で登っていくと、突如あたり一面にブドウ畑が広がります。

これは2013年に誕生した「つくばワイナリー」のブドウ畑です。2019年には、醸造所も完成して、より本格的なワインづくりが始まりました。「茨城で、ワインをつくってるの?」と驚く人も多いとは思いますが、日本で最初の本格的ワイン醸造場の「牛久シャトー」が茨城県にあるなど、実はワインの産地でもあるのです。

つくばワイナリーを運営するカドヤカンパニーの専務取締役である岡崎洋司さんに案内をしてもらいました。

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つくばワイナリー誕生の経緯

つくばワイナリーのブドウ畑があるのは、つくば市の中でも北条という地域です。この地には、奈良・平安時代の役所跡とされている『平沢官衙かんが遺跡』や、平安時代中期の『多気城跡』や鎌倉時代の『北条城跡』など、古くから政治・経済の要衝として治められてきた由緒ある土地でもあります。実際、ブドウ畑を造る際に事前に調査が行われたんですが、竪穴式住居などの跡が65基、他にもたくさんの遺品が発掘されたんですよ」と岡崎さんは言います。

確かに、筑波山を仰ぎ見る光景は、権力者たちを惹きつけ、土地の人々の畏敬を集めるのに適した場所だったことも頷けます。

この風光明媚な土地に広がるブドウ畑は約18haで、およそ約6,000本の葡萄の樹を栽培しているといいます。

実は、つくば市は、国税庁が2002年に創設した「構造改革特区」の申請を行い、2017年に「つくばワイン・フルーツ酒特区」の認定を受けている自治体でもあります。

構造改革特区とは、国の規制について地域を限定して改革をする制度で、つくば市が認定を受けたことで、通常の酒税法でワインを含む果実酒の製造許可を得るには年間6㎘以上つくる必要があるところを2㎘から許可を受けることができるようになりました。これによって、参入障壁が大きく下がり、小規模の個性的なワインづくりも可能になります。

この構造改革特区認定の背景には、筑波山周辺がワインづくりに適しているという地勢的な背景もあります。花崗岩質が風化した土壌は、フランスのローヌ地方やイタリアのサルディーニャ島といった世界的に有名な生産地に似ており、質の良いワインづくりが期待できるエリアでもあるのです。

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つくばの気候にあったブドウ品種を育てる

つくばワイナリーで現在栽培されているブドウ品種は、おもに5種類。なかでも2013年の創設当初から栽培されているのが赤ワイン品種の「富士の夢」と白ワイン品種の「北天の雫」です。

ワイン用のブドウを育てるにあたって山梨県の志村葡萄研究所の志村富男先生に相談をさせていただきました。志村先生は、日本でワイン用のブドウを栽培するなら、海外の品種にこだわらず日本の気候風土に合ったブドウを栽培するべきという考え方をお持ちの方です。幸いにもつくばの環境が、志村先生が交配した品種の『北天の雫』と『富士の夢』を育てるのに適していることがわかり、2つの品種の栽培からつくばワイナリーは、スタートしたのです

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富士の夢

山葡萄の品種である「行者の水」と、フランス・ボルドー地方が原産とされるメルロー種を交配させた赤ワイン用のブドウ品種です。

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北天の雫

富士の夢」と同じ山葡萄品種の「行者の水」とドイツやフランス北東部のアルザス地方などで栽培される白ワイン用品種のリースリングを交配させたもの。ボディーのある白ワイン用品種です。

富士の夢」と「北天の雫」の栽培が安定してきたころからは、フランスのワイン用ブドウ品種の栽培も開始します。

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マルセラン

赤ワイン用の2つのブドウ品種「カベルネ・ソーヴィニョン」と「グルナッシュ」の交配した品種です。

実は、このマルセラン、フランス国内で注目を集めているブドウでもあります。

フランス産の伝統的な産地のワインは、A.O.C.(Appellation d'Origine Contrôlée、原産地呼称統制)によって厳しい規制があり、使用するブドウ品種や醸造方法に決まりがあります。そのため、古くからその地に伝わる在来品種ではないマルセランのような交配品種を使うことはA.O.C.では禁止されていました。

しかし、近年の気候変動によってブドウの栽培にも変化がみられるようになりそれに対応したブドウ品種として、2019年にA.O.C.ボルドーおよびボルドー・シュペリウールの生産者団体が、7種の新たなブドウ品種の導入を許可することになります。そのひとつがマルセランだったのです。

日本で栽培しているワイナリーは少ない貴重な品種ということで「マルセランを育てているつくばワイナリー」としても注目を集めているそうです。

他にも、メルローやシャルドネといったブドウ品種も育てています。

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醸造所の完成で完熟した果汁の良さが現れてきた

2019年には、ついに自家醸造所が併設されました。それまで収穫していたブドウは、山梨県の醸造所でワインにしてもらっていましたが、醸造所ができたことでつくばワイナリーが作りたいワインに一気に近づくことができました。

醸造だけを別にお願いする場合は、どうしても『何月何日にこの量のブドウを届けます』という方法をせざるを得ないのです。それが自分たちで醸造ができるようになると、『今日はここの区画のブドウの状態がいいからここからやろう』とか『この区画はもう少しまたなければいけない』というような調整ができるようになるんです。そこはとても大きなことだと思います

醸造所の設立に際して、醸造責任者としてつくばワイナリーにやってきたのが北村工さんです。醸造所の設立計画が始まった2017年から参画しています。北村さんも同様に、完熟したブドウから醸造していけることは、つくばワイナリーの強みだといいます。

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やはり、完熟したブドウから絞った果汁は質が違います。その違いをワインに出していきたいですし、ブドウ畑と醸造所が近いつくばワイナリーならではだと思っています。2019年に最初のヴィンテージができ、それを地元のつくばや茨城県のみなさんにたくさん飲んでいただけてうれしかったですね。つくばの地でブドウを育てて醸造してできたワインですから、まずは地元の人に飲んでいただきたいです。地元や関東圏に向けて販売していくことで、たとえば酸化防止剤にあたる亜硫酸塩の添加を極力少なくすることもできますので、果汁の良さをさらに味わっていただきやすくなると思います

醸造所ができて以来、富士の夢でつくった「TSUKUBA ROUGE」(写真右)や北天の雫でつくった「TSUKUBA BLANC」(写真、左。ともにオンラインショップ価格3,080円 )などの自社醸造ラインも新設。2021年ヴィンテージの仕込みも9月から始まっています。

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醸造責任者としてつくばワイナリーに勤める以前にも、つくばワイナリーのブドウ畑に来たことがあったという北村さん。「筑波山から吹き込む風が気持ちのいい場所で、お気に入りの場所でした。東京から日帰りもできるワイナリーですので、自然を楽しむ感覚で遊びにきていただきたいですね」とつくばワイナリーの魅力も話してくれました。

つくばのワインがつくばの食にさらに価値を付ける

つくばワイナリーがあるエリアは、10年ほど前までは、茨城県住宅供給公社が宅地分譲地として計画していたものでした。その分譲計画が廃止されたことをきっかけに、本業は不動産会社であるカドヤカンパニーが購入。宅地として分譲するのではなく、この風光明媚な土地を活かした新しいつくばの価値を創ろうとして考えついたのがブドウ畑を併設したワイナリーでした。

醸造長の北村も言っていたとおり、この場所は本当に景色もすばらしくて気持ちがいいんです。だからヘタなことをしてその良さを壊したくない。そこで全国のさまざまな場所をリサーチのために見学へ行ったうえで、土地の特徴から一番ふさわしいと思ったのが、一面の美しいブドウ畑だったんです」と岡崎さんは、開発の経緯を振り返ります。

私たちは、ワインづくりはまったくの素人でしたから志村先生にお力を借りてブドウ畑をつくって、ようやく醸造所もできて構想が形になってきました。計画当初にあったハーブ園を造園したり、つくばワイナリーのワインやハーブ園のハーブ、つくば市の食材を使ったオーヴェルジュ(宿泊付きのレストラン)なども実現させていきたいですね

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東京都内からつくば駅へは電車で最速で60分ほど。駅からレンタカーを借りれば30分ほどで着く「日帰りできるワイナリー」という地理的優位性を活かすこともできると岡崎さん。たとえば、富裕層向けにブドウ畑付き住宅を作り「ワインづくりができる別荘」として販売することができれば、つくばワインのブランドの向上や地域の活性化にもつながる可能性もあると、ワインを通じた地域創成の展望を語ります。

筑波山周辺は、古くから筑波山信仰に彩られたお神酒としての酒造りが盛んに行われてきた地であり、酒蔵の多いエリアでもあります。今回訪れたつくばワイナリー以外にも、「つくばワイン・フルーツ酒特区」には、ワイナリーが少しずつでき始めています。これからどんどん技術が向上していくはずです。こうした地域の酒文化と、新しく入ってきた西洋の酒文化を融合することができれば、ほかの地域にない、つくばらしい酒のエリアとしての価値が見いだされることになるでしょう。

さらに、つくばを中心にした茨城県南部は、これまでシェフと茨城でも紹介してきたように、さまざまな食材の宝庫でもあります。少し足をのばせば琵琶湖に次ぎ面積第二位の湖、霞ヶ浦に立ち寄ることも可能です。

ワイン産地としてのつくばは、世界や日本の産地に比べればまだまだ発展途上であると言わざるを得ません。しかし”未開拓”であるからこその発見や新しいアイディア、地域との関係づくりの構築などは、たとえば将来的に土地に根差したワインや野菜づくりをしながら、レストランを営みたいと夢見ている料理人やサービス人の方にとって貴重なモデルケースになるはずです。

茨城・つくばが、そうした夢を実現させたり、膨らませたりするための場所になれば幸いです。

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Edit & Text by Ichiro Erokumae
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ありがとうございます🙌茨城もあなたがスキです❣️
実は“食材の宝庫“である茨城県。「シェフと茨城」では、茨城の食材とその作り手を、食材の目利き役であるシェフの皆さんとの取り組みを通してお伝えしていきます。シェフにとって本当の意味の“身近な生産地”に、茨城はなりたい。