飯沼栗|地域の生産者の想いが一つになった日本で唯一の栗
突然ですが、農林水産省の「GI(地理的表示)保護制度」を知っていますか?
地域には、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品が多く存在しています。これらの産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し、保護する制度が「地理的表示保護制度」です。
農林水産省は、地理的表示保護制度の導入を通じて、それらの生産業者の利益の保護を図ると同時に、農林水産業や関連産業の発展、需要者の利益を図るよう取組を進めてまいります。(農林水産省HPより)
2020年12月23日現在 食料産業局 知的財産課
茨城県中部の茨城町で栽培されている飯沼栗は、2017年にGI認定された食材で、日本で38例目、栗としては日本で唯一GI認定を得た食材です。
実は茨城県は、日本一の栗の産地。収穫量、出荷量、産出額とともにぶっちぎりのトップなんです。県内の産地としては笠間の名前が知られているので、ピンとくる方も多いのではないでしょうか。
飯沼の栗は、農家数こそ県内市町村で5位ではありますが、品質は茨城一といわれるプレミアムな高級栗。実際、東京都中央卸売市場での栗の扱いをみると、全国平均で753円/㎏ですが、飯沼栗は1188円/㎏(ともに2017年の実績)と、高価で取り引きされています。
そのため東京の卸売り市場から「値段が高くなるから、これ以上有名にならないで欲しい」という悲鳴も聞こえてくるほどです。
「価格ではなく、味と品質で勝負する」という決意
ヨーロッパにすでにある AOP(原産地呼称保護)や IGP(地理的表示保護)の制度にならい、2015年から日本でも始まったGI保護制度。特徴は、「土地に由来する伝統的な製法で作られた高品質なもの」であることです。
GI保護制度によって、消費者にとってどんなメリットがあるのでしょうか?
「土地に由来する伝統的な製法」とは、「品質を守るためにコストをかけている」ということにつながります。当然、そのぶん価格は高くなってしまいます。「高いのは嫌だなぁ」と思われる方もいるかもしれませんが、実はこれが食材全体のクオリティを上げ、粗悪な「外れ商品」に出会うことが減る、消費者にとってもメリットがあるものです。
作る側で見るとたとえば、GI認定を得ると「品質管理のコストをかけず、価格を下げて売る」ようなことが、仕組み上できなくなります。つまり、こっそり手を抜いた粗悪品、そのブランドの価値を下げるような商品が出せなくなるわけです。
そのため飯沼栗を育てる下飯沼栗生産販売組合には、11の生産者さんがいますが、そのすべての人たちが、この価値観を共有していなければ成り立ちません。「自分はそこまでしなくてもいい」ということでは認証が取れないので、全員が同じ方向を向いている必要があります。
価格ではなく、味と品質で勝負する。
この価値観のもと、一丸となって「飯沼栗」のブランド価値を品質で作り上げていく。そんな強い意志が飯沼栗のGI認定には込められているのです。
他産地との差別化から生まれた冷温熟成技術
下飯沼栗生産販売組合の組合長、田口一彦さんによると、下飯沼地域で栗の栽培が盛んになったのは、ここ30年ほどのことだといいます。それまでは、下飯沼地域は、用材として使う松の栽培が大きな産業だったといいます。
時代が移り変わり松の需要が減っていくなか、1978年に未曽有とも呼べる松くい虫の被害が茨城県を襲います。74万㎡(明治神宮の森1つ分以上)が枯れる被害は、下飯沼地域にも及び、これを機に新しい地域産業の創出に迫られます。
下飯沼地区の地は、保水通気性が良く排水性も良好な火山灰性土壌(関東ローム層)の上にあり、平均気温13.6℃、年間降水量1,354mmと安定した気候から、栗の栽培に適した地域だったこともあり、新規産業として栗栽培に挑戦することになります。
明治時代から続く栗の名産地である笠間などに比べると後発にあたる飯沼栗は、当初は出荷が遅い晩生種の栗を使うことで出荷時期を他地域とずらすことで差別化を図ろうとします。
そのため飯沼栗は晩生種の「石鎚」を使っています。さらに受精を抑制する特別な栽培方法によって、1つ栗の毬(いが)に3つの果が入る一般的な栗とは異なる、1つの栗の毬(いが)に1つの果が入った「一毬一果(いっきゅういっか)」の栽培技術を確立します。
もう一つの特徴は、0℃前後の冷温環境で最低2週間熟成させることです。通常、栗の糖度は4.5度程度なのですが、低温貯蔵によって糖度が8度程度(甘いフルーツトマト並の糖度)まで上がることになります。
「当初は出荷を遅らせるためにおがくずに入れて貯蔵していたのですが、それが結果的に糖度を上げることがわかったんです」と田口さん。1980年には、より安定した冷温での貯蔵を目指し、組合員一人に1台の冷温貯蔵庫を購入し、本格的な栗の冷蔵貯蔵をスタートさせるのです。
飯沼栗は現在、貯蔵庫で2週間以上熟成をしています。さらに貯蔵前、貯蔵後の2回の選別をおこない、虫食いした栗をよけ、大きさを揃えます。そして出荷前にもう一度選別。合計3回の選別・選果を行ったのちに、全果洗浄を行いようやく出荷を迎えます。
これほどまでに厳しい生産工程を守るのは、一毬一果によって大きく丸々とした飯沼栗のブランドのため。11の生産者さん、全員が同じプライドをもって飯沼栗を届けようとしているからです。
価格での勝負ではなく、味と品質で勝負する。
こうしてプロが一目置くほどの「飯沼栗」は誕生したのです。
シェフたちから集まった飯沼栗を使った料理
10月末に下飯沼栗生産販売組合を訪れたシェフたち。しかし、飯沼栗の出荷解禁前ということもあって、試食ができませんでした。後日、それぞれのお店に送られてきた正真正銘の「飯沼栗」を使って試作をはじめたシェフたち。完成した料理をご紹介します!
飯沼栗と十勝ハーブ牛のラザーニャ
毎年栗のラザーニャを出しているのですが、栗が変わるだけで驚くほど変わりました!!
飯沼栗と鯖のペペロンチーノ
飯沼栗は、ヘーゼルナッツやカシューナッツのような濃厚さがありました。とはいっても、ナッツっぽい平べったい油脂っぽさではなく、新ジャンルの濃厚さがあるのでおもしろかったです。栗の渋皮も、風味がしっかり芯があり、嫌味なほどの苦味や渋味ではなかったので、料理全体を引き立てる役として渋皮とコーヒー豆をパウダーにして、サバのペペロンチーノにふりかけています。
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飯沼栗は、毎年9月から10月末まで、下飯沼栗生産販売組合のサイトから購入することができます。サイト内のお知らせのページで告知されますので、気になる方は来年の秋にチェックしてみてください。
また、茨城町のふるさと納税の返礼品にもなっていますので、各ふるさと納税のサイトでご確認ください。
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次回の更新は、1月6日(水)。生産地ツアーで訪れた「西崎ファーム」さんの物語です。
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Supported by 茨城食彩提案会開催事業
Direction by Megumi Fujita
Edit & Text by Ichiro Erokumae
Photos by Naoto Shimoda, Ichiro Erokumae
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