藤良樹さん|「茨城県の食材は個性がない」のは、私たち料理人の責任かもしれない
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藤良樹さん|「茨城県の食材は個性がない」のは、私たち料理人の責任かもしれない

茨城県北西部、JR水郡線にある常陸大宮駅から車で10分ほどの常陸大宮市下村田は、室町時代末期に活躍した画家、雪村の生誕地として知られています。玉川という小さな川が流れる同地は、雪村が育ったころの風景を彷彿とさせるような田園風景が今も広がっています。その田園の中に立つ「雪村庵」は、当地ゆかりの画家から名前をとった美しい庭園をもつ一軒家のレストランです。

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開店は1999年。22年目を迎えた歴史あるレストランには、地元だけでなく県外からわざわざ食べに来る人が増えています。地元の人々に愛されるフランス料理店として長く知られてきた名店のシェフになった藤良樹さんが、2代目のオーナーになってからは特に、茨城県の食材をふんだんに使ったローカルレストランとして都会の食通の間でも話題にあがるようになりました。

茨城県の食材の魅力を、茨城県の中から伝えていく。そんな想いをもつ藤さんに、ローカルシェフが地域や生産者とともにできることとは何かを聞きました。

美食の街・バスクでの経験。半径20㎞の食材の価値

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日立市に生まれた藤さんは、水戸市の調理師専門学校を卒業した後、県内外のフランス料理店で修業したのち、2004年に雪村庵へ入ります。当時の深谷シェフから地元の常陸大宮の食材の良さを教わったことで、地元の茨城の食材を使ったフランス料理の可能性に惹かれます。

2010年にシェフに就任し、さらに2014年には昭和初期の建物も引き継いでオーナーシェフになってからは、より茨城県の食材を強く意識した料理で人気を博しています。

折しも地域と食・レストランが強く結びついて生まれた新しいレストランのスタイルとして”ローカル・ガストロミー”という言葉が知られるようになった時代。富山県の「レヴォ」や和歌山県の「ヴィラ・アイーダ」「オテル・ド・ヨシノ」、北海道の「ル・ミュゼ」といった地域の文化に根付いたレストランが生まれる時代に呼応するように、藤さんも生まれ育った茨城県の食の魅力を県内から発信することに力を注ぐようになります。

オーナーシェフとして5年、さらなる成長を求めた藤さんは、なんと2019年から1年もの間、雪村庵を休業して「美食の街」として世界に知られるスペイン・バスク地方に研修に旅立ちます。

現地でミシュランガイドで一つ星を獲得する名店「アラメダ」で1年。さらには、現地でのつながりを駆使して、サンセバスチャンの三つ星「マルティン・ベラサテギ」、二つ星「ムガリッツ」の厨房に短期間ながら研修で入る機会を得て帰国します。

バスクでの経験で、もっとも印象に残っていることについて聞くと、藤さんは研修先のアラメダのシェフ、ゴルカ・チャパルティギさんに聞かされた言葉を教えてくれました。

地元で完結できるようなレストラン作りに励んでいる。半径20キロ以内の素材で作り上げるレストランはここに来る意味もあるだろう?

茨城県の中でも北西部にあり、県内で決してアクセスが良いわけでもない常陸大宮にわざわざ来店していただけるレストランになるためには、ゴルカさんの言うような「地域の素材で作り上げる料理」をしていくことであることを改めて確信したといいます。

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(アラメダのゴルカ・チャパルティギさんとのツーショット)

バスクで学んだ食材への敬意を皿の上で表現

大津港産サヨリのマリネ 龍ケ崎トマトのソース」はそうしたバスクでの経験から生まれたひと皿です。

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県北東部の大津港であがったサヨリと龍ケ崎市の関口農園で採れるファースト系のトマトを味わってもらいたいという料理で、粗目に刻んだトマトをオリーブオイルとアンチョビなどで和えたソースで食べるバスクで学んできた料理です。

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関口さんのトマトは、糖度を上げるために水をあげずに栽培していく方法とは真逆で、水をめいっぱい、滴るくらいまであげるのが特徴です。その方がトマトがパンパンに張るようになるからだといいます。バスクで食べたトマトに似てるんですね。夏のイメージがあるトマトですけども、冬のトマトも違った風味と香りがあっておいしい。食材の違った一面を伝えられるのも産地に近いレストランだからこそできることだと思っています

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ソースの上には一枚一枚丁寧にハーブを添えていきます。料理に対する丁寧な作業も、バスクの星付きレストランで学んできたことだと藤さんは言います。

コースのメイン料理として出されるのはかすみがうら市のジャフラ農場で育てられたホロホロ鳥を使った「茨城県産ホロホロ鳥のバロティーヌ 香茸のソース ノーザンルビーとフルム・ダンベールのソース ホタテのチップス添え」は、バスクで学んだ「食材に対する敬意」が現れたひと皿です。

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ホロホロ鳥は、繁殖に熱帯性の気候が必要なのと、もともと繊細な生き物ということもあり、国内では飼育が進んでいる農家は非常に少ないのが実情です。

バスクでは、食事を宝物のようにして丁寧に扱っていました。そういった食材への敬意が、地域の食を支えていることを感じました。この貴重なジャフラ農場さんのホロホロ鳥を使わせていただけることもあって、1羽の命をまるごといただくことをテーマに、モモ肉をミンチにしたものをムネ肉で巻き込む伝統的な調理法を採用しています。さらにホロホロ鳥の骨からもバスクで教わったソースの取り方でしっかりと丸ごと1羽活かしきる料理に仕上げています

しっかりと表面を焼き固めるようにすることで、中の水分を逃がさずしっとりと焼きあがったホロホロ鳥に薫り高い香茸のソース、そうしてうま味と塩味が凝縮されたホタテのチップスが味と食感のアクセントになって、食べ進める楽しみを生み出します。

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さらにかわいらしいピンク色が特徴のジャガイモ「ノーザンルビー」は、フルム・ダンベールというフランスの青カビチーズを使ってコク深い味わいのもう一つのソースとして皿の上を彩ります。

料理人がもつ「厳しさ」が地域の文化を支える

茨城県の食材は個性がない――。そういわれてしまうのは、自分たち料理人の責任ではないかと藤さんは考えています。

生産者さんは、商売でもあるので求められるものを作ると思うんです。東京でたくさんの需要があれば、大量に作りますよね。地元からの需要がなければ、地元のニーズに絞って生産ができません。そうすると、特徴がなくなってしまうんです、せっかくおいしいものを育てられるのにですよ。広島県の梶谷農園さんや石川県の高農園とかローカルな生産者さんがいらっしゃるのは、料理人が求めているから特化できた思うんです。そう考えると、茨城県には、私たち料理人が地元の食材を求める姿勢が必要なんだと思うんです

それには、料理人と生産者の意識の変化も必要で、その一つには、茨城県内だけを見ていてはいけないと、藤さんはいいます。

たとえば、高萩市の「柴田農園」の柴田祥平さんは、2019年に新規就農した若手ファーマーです。就農してすぐに広島県三原市でハーブやエディブルフラワー(食用花)を育て、国内の星付きレストランを中心に卸す日本を代表するスターファーマー、「梶谷農園」の梶谷譲さんのもとで1カ月間研修をし、2020年からハーブやエディブルフラワーの栽培を始めました。

藤さんは梶谷農園のハーブを以前から使っており、その味と香りの豊かさをよく知っていたため、柴田さんには、梶谷さんのハーブがなぜ料理人に求められるのかということをよく伝え、「ゆくゆくは茨城でしかできないハーブが作れるとおもしろいよね」という話をしているといいます。

そのためには、藤さん自身も、茨城県だけではなく日本や世界の基準、目指す高みを知らないといけません。茨城県の食材であれば何でもよいというわけではなく、県外の食材と比べても「茨城県の方がおいしい」と思えるものを目指さないといけないわけです。

地元の食材をただ使う『地産地消』ではなく、料理人と生産者さんがともに成長して、ブランド化していくのが、今は大事だと思うんです。それを長い目で見てやっていければいいな思っています

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そういった料理人と生産者との関係が地域の食文化を支える光景は、バスクで見てきたものでもあると、藤さんはいいます。

世界のベストレストラン50のトップ10にランクインするバスクの『アサドール・エチェバリ』で食材のお話を少しすることできたのですが、食材、たとえば牛肉が届くと、すべて味見をして、あまり好みではないものがあると、その牛肉は取らないという話を聞きました。それは、シェフと生産者さんとの信頼の上で成り立っているからだと思うのですが、その信頼のなかにある『厳しさ』が、地域の食文化を支えると思うんです。そういうことを見てきたこともあって、自分自身も、食材を食べて気付いたことや自分の好みをしっかりと生産者さんに伝えるようになりました

何十年もミシュランガイドで星を獲り続けているレストランが、それこそ「ゴロゴロ」とあるバスク地方と茨城県は、比べられる段階にないことは前提ではありますが、それでも「私たち料理人の存在は、まだまだ弱い」と藤さん。県内の食材のレベルを上げるためには、存在感を強めていく必要があるともいいます。

県内の料理人のネットワークを強めて、何人かでまとまって産地をまわるようなことができればいいな、と思っています。そのためにも、今は志を同じくする仲間の料理人を見つけることも大事なことだと思っています

県内の料理人のネットワークができれば、県外との交流も必然的に生まれてくるでしょう。藤さんの「雪村庵」がその交流の拠点になり、県内外の料理人が行き交うことで交換した情報は、産地の生産者にも伝えられ、食材のレベルの底上げにもつながるはずです。

その時に、「首都圏から近い」茨城県ならではの料理人と生産者、地域のサイクルが生まれやすくなります。藤さんの強い決意を聞きながら、「個性のある産地・茨城」の未来が見えてきたように思います。

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次回の更新は、3月31日。4月に白金台に移転オープンするフランス料理店「アルシミスト」のシェフ、山本健一さんをはじめとするレストランチームが県内を視察。産地ツアーの様子をレポートします。どうぞお楽しみに!

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Supported by 茨城食彩提案会開催事業
Direction by Megumi Fujita
Edit & Text by Ichiro Erokumae
Photos by Ichiro Erokumae

【問い合わせ先】
茨城県営業戦略部東京渉外局県産品販売促進チーム
Tel:03-5492-5411(担当:澤幡・佐野)
ありがとうございます🙌茨城もあなたがスキです❣️
実は“食材の宝庫“である茨城県。「シェフと茨城」では、茨城の食材とその作り手を、食材の目利き役であるシェフの皆さんとの取り組みを通してお伝えしていきます。シェフにとって本当の意味の“身近な生産地”に、茨城はなりたい。