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使ったことがある食材はいくつありますか? 新たな食材活用が待たれる茨城県産の珍しい食材たち

この記事に登場する人
加藤貴之さん|「クイーンズオーストリッチつくば」代表
木村良彦さん|「日本キジ・ヤマドリ養殖センター」代表
時田 武さん|「トキタフィッシュカンパニー」(株式会社トキタ)取締役

取材に同行した人
セキネトモイキさん|「nokishita711」オーナーバーテンダー
豊永裕美さん|食材探検家、「亀は亀」主宰

どこでも手に入るものではなく、他店と差別化できるような個性的な食材を探しているというシェフは多いのではないでしょうか。今回は、茨城県で生産されつつも広く知られていないだけでなく、新しい活用の可能性を秘めたに食材をフォーカスします。

紹介する食材は、環境負荷の低い畜産として注目を集める鳥肉や環境の変化によって増えた湖魚、養殖により食用化を目指す日本固有の野鳥など、おそらくどの食材も初めて知るものばかりでしょう。さぁ、新たな食材活用が待たれるちょっと珍しい食材を探索する茨城県の旅に出発しましょう!

まずは筑波山の西側、筑西市を目指します。

ダチョウ|クイーンズオーストリッチつくば(筑西市)

最初に到着したのは、茨城県中西部の筑西市にある「クイーンズオーストリッチつくば」です。筑波山を望む農作地に突如現れる飼育場では、ニョキっと首を長く立てて静かにたたずむダチョウたちが迎えてくれます。

全国でも10軒ほどしかない希少な食肉用のダチョウを飼育するのは、代表の加藤貴之さんです。

アフリカ原産のダチョウは、暑いところでも育つのはもちろん、寒い環境にも強く、ロシアでも飼われているそうです。日本でも、沖縄や伊豆、埼玉、北海道など、飼育農家さんが増えてきています。さらに近年は、牛や豚に比べて食べる量が少なかったり(体重1㎏あたりの餌を食べる餌の量は、牛の1/4程度)、二酸化炭素排出量も低いなど、環境負荷の少ないサステナブルな食肉として注目を集めています

さらに、ダチョウの腸は長く、主食の牧草を体内でしっかり吸収してから排出するため、糞や尿の匂いも少ないのも特徴です。たしかに畜産特有の匂いがないため、農場が近くなってもダチョウがいることに気づきませんでした。周辺の民家にも影響が少なく、都市型畜産にも向いているといいます。

加えてふ化から1年で100㎏まで成長するため、人口増加による食糧不足を解決する食材としても期待されています。さらに、ダチョウは、病気に強い性質もあって、抗生物質などの投与も必要ありません。

古代エジプト時代から家畜として人間とともに暮らす鳥類で、古代ローマ時代の料理人、マルクス・ガビウス・アピシウスのレシピにもダチョウ肉が使われていることから、早い時期から食用になっていたとされる。現生する鳥類で最大(体重基準)ともいわれる。
取材には、液体料理を提供するバーとして日本のみならず海外からも注目される京都「nokishita711」のセキネトモイキさんも同行した。セキネさんは、肉、魚、虫、植物などすべての食材を液体として抽出したカクテルを生みだす気鋭のバーテンダーだ。
「クイーンズオーストリッチつくば」代表の加藤貴之さん(右)。左は、セキネさんとともに取材に同行した食材探検家の豊永裕美さん。

味は牛と鶏の肉の間くらい」と加藤さんがいうように、鶏肉のようなやわらかさとタンパクな味わいでありながら、牛の赤身肉のような鉄っぽさと、牧草由来のうま味と香りをわずかに感じることができます。この日試食させてもらったローストの冷製は、脂がほとんどなくさっぱりとした味わいで、スルスルと食べてしまう上質な赤身肉という印象です。

牛肉の脂の方が強い香りがしますよね」と、同行した京都の液体料理のカクテルバー「nokishita711」のセキネトモイキさんがいうと「今回は、端の脂を取り除いたので脂の香りはしませんが、脂は脂でダチョウらしい香りがするんですよ。脂と赤身をミンチにしてハンバーグにすると、ダチョウらしさがよく出ます。”ダチョウらしさ”というのは表現しにくいのですが、一度感じていただけるとその意味をわかっていただけると思います」と加藤さんはいいます。

コロナ渦で2021年、2022年は生産数を抑えて年間10羽ほどの出荷でしたが、現在は100羽にまで増やそうと計画しています」と加藤さん。クイーンズオーストリッチつくばでは、海外なら生後7カ月程度で出荷するところを1年間かけてじっくりと育てることで、味わい深い肉質を目指しているといいます。

ダチョウは、12月から翌年の9月頃までが産卵期で、個体によって差はありますが、80~100個の卵を産みます。そのなかでふ化するのは、8割ほど。意外と多いと感じるかもしれませんが、交尾の様子や卵の外観、これまでの産卵の傾向といった点を加藤さんが見極め有精卵と思われるものをふ化させることで確立を高めています。

生き物ですから、個体によって卵を産む量も差があって、80~100個というのは、比較的多いダチョウです。産まないダチョウは、年間30個だったりもします。基本的にオスとメスのつがいで飼育をしていて、相性のよいカップルを見極めてゲージに入れてるんです」

加藤さんが移動するごとにダチョウたちはその姿を追ってキョロキョロするのが印象的です。ダチョウたちは、加藤さんのことを信頼していることがわかります。

ローストしたダチョウの足肉は、すっきりとした味わいで脂のくどさはなく、パクパクと食べられた。
「脂の香りは液体に移しやすいので、ぜひダチョウ肉を使ったカクテルを作ってみたい」とセキネさん(右)。
ダチョウに与えるのは牧草が中心。「ただし牧草だけでは味が淡白になってしまう」と、追加で濃厚飼料を与えている。どのように肉質に影響を与えるかは試行錯誤中で、大豆や米ぬかの量を増やしたり、つくば市のワイナリー「つくばワイナリー」で出た麦芽の搾りカスなどを加えて肉質の向上を研究している。
ダチョウの優雅な羽の下に見えるのは、ムキムキとアスリートのように発達した足の筋肉だ。写真で見ているのは、人間で言うとふくらはぎになる。

ヤマドリ|日本キジ・ヤマドリ養殖センター(日立市)

続いて訪れるのは、茨城県北東部の日立市ある「日本キジヤマドリ養殖センター」です。1.2haの敷地で、おもに観賞用や放鳥用の成鳥のキジやヤマドリ、コジュケイを飼育しているほか、ふ化を目的とした有精卵の販売をしています。養殖をするのは、この道45年のベテランで、センターの代表でもある木村良彦さんです。

キジとヤマドリ、コジュケイは、日本で狩猟鳥に指定されている26種のうちの3種で、ともにキジ目キジ科に属しています。ちなみに、キジ目キジ科で狩猟鳥に指定されているのはほかに1種あり、エゾライチョウです。

今は、キジとヤマドリをだけを養殖している。というのも去年(2022年)養殖場内にイタチが棲みついてしまって、コジュケイは全滅してしまったんだ」と木村さん。現在は、2023年春にふ化したキジとヤマドリを育てて、規模を戻そうとしています。

キジやヤマドリは、人工授精技術を使った繫殖方法が一般的ですが、日本キジ・ヤマドリ養殖センターでは自然交配方式を取り入れているのが特徴です。

とくにヤマドリは、有精卵を得るのが難しく、養殖事業では人工授精の方が効率的とされています。しかし木村さんは、45年以上にわたる経験によって自然交配でも7割ほどの有精卵を得られるような環境づくりを成功させました。

山奥に棲むヤマドリは、キツネやテンなどの天敵が多くて、物音がするとサッと隠れるような用心深さがあるんだ。だから、交尾をするのも時間がかかる。だけど、生態などをよく観察して驚かせないように細心の注意を払いながら飼育すれば有精卵を得ることができるんだよ

じっさい養殖場に入るまえにヤマドリを驚かせないように、急に近づいたり物音を立てないようにと木村さんから注意を受けたほどです。「自然交配にこだわるのは、その方が鳥にとって自然なことだから」と木村さん。敷地内に網で囲った40ほどの部屋をつくり、ヤマドリであればオス1羽に対して、様子を見ながらメスを3羽から5羽を入れて産卵させます。

ちなみにヤマドリの産卵期は春の一度だけで、最盛期は4月。24日ほどで卵からふ化し、4~5カ月で親鳥と同じような見た目になるといいます。

一見すると草がボウボウに生えていたり、伸びすぎた枝や蔓が部屋中を覆っていたりして、養殖場は雑然としているように見えます。しかしよく観察してみると、比較的平野部に棲むキジの部屋には、部屋を覆うような草や蔓が少なく見通しがよいのに対して、ヤマドリの部屋はうっそうとして中が見にくい、隠れ場所がある環境にしていることに気づきます。

木村さんは、養殖場のなかを出来る限りヤマドリやキジが棲む自然環境になるように再現しているのです。

「日本キジ・ヤマドリ養殖センター」代表の木村良彦さん。「人工交配で100%を目指す必要はない。人間もそうだけど、成績が良いのと悪いのがあるのが当たり前でしょ。7割がふ化するので十分採算はとれるから」と木村さん。
2歳のヤマドリのオス。長い尾が美しい。
春に生まれたばかりのヤマドリのメス。
日本キジ・ヤマドリ養殖センターの養殖場内の様子。


そんな木村さんの元に、最近通いはじめるようになったのが食材探検家で、食材探検コミュニティ「亀は亀」を主宰する豊永裕美さんです。豊永さんは、観賞用で飼育していたヤマドリを知り合いに食べさせてもらってヤマドリの美味しさに感銘をうけ、食材としてのヤマドリに注目をしていたときに木村さんの存在を知りました。持ち前の行動力で猛烈アタックをして養殖場の手伝いをすることになりました。

他の養鳥や野鳥と似ても似つかないもも肉の独特な燻製香がとても印象的でした。日本でも珍しい自然交配で養殖をする木村さんのヤマドリを、食材として多くの料理人に届けたいと思ったんです」(豊永さん)

現在は、イタチの被害から復興するためにふ化させる量を増やしているなかで、食用のヤマドリも生産していこうと試行錯誤をしているといいます。

木村さんは食用で育てているわけではないので、たとえば与える飼料は養鶏用の配合飼料だったりして、食用としての品質をあげていけるようなことはまだまだできると思っています。野生のヤマドリが自然界で実際に食べている落ち葉や木の実を与えたり、いろいろと試していきたいです」(豊永さん)

取材では、養殖場内の薪ストーブの火を借りてヤマドリを試食させてもらいました。うま味の強さと、とくにモモ肉の脂の独特な香りは、養鳥でも野鳥でもない味わいで魅力的です。

流通させるための課題はまだ多いですが、木村さん自身も「ヤマドリを増やすことは、これまででもできた。でもやってなかったのは売り先がないから。彼女が来てくれて新しく食用の売り先ができたら増やすことはできるよ」と、木村さんも意欲を示しており、現在200羽ほど育てているヤマドリを、来年以降で500羽、1000羽と増やしていく計画をしているといいます。

祖父と孫娘ほど歳の離れた2人のタッグで、茨城県から新しい食材が誕生しようとしています。

ヤマドリのオスとメスを試食。セキネさんが捌いた肉を薪火で焼いた。
木村さん(中央)と豊永さん(右)、セキネさん(左)

チョウザメ|トキタフィッシュカンパニー(河内町)

利根川と新利根川に南北を挟まれた河内町にある「トキタフィッシュカンパニー」は、町内で廃校になった長竿小学校の旧校舎やプールを再利用し、2016年からチョウザメの養殖をスタートさせました。チョウザメの卵からキャビアを製造するとともに、チョウザメの肉の販売も行っています。

2023年4月に発売された茨城県のオリジナルブランド「霞ヶ浦キャビア」を製造する県内2つの事業所のひとつです。

チョウザメ事業をはじめて今年で7年目。それまでは、成魚で仕入れて育てたチョウザメでキャビアを作ってきましたが、今年からは、稚魚から育てたチョウザメの卵でキャビアを作れるようになりました。感慨深いですね」というのは、トキタフィッシュカンパニーを運営する株式会社トキタの取締役、時田武さんです。

2023年分のキャビアは11月末に出荷予定で、自社製品の「熟成キャビア」と「フレッシュキャビア」で500個、茨城県ブランド「霞ヶ浦キャビア」で500個、あわせて1,000個の製造を見込んでいるといいます。

トキタフィッシュカンパニー(前・キャビアフィッシュカンパニー)は、建設工事会社「コスモ興業」の社長でもある時田さんが設立した陸上養殖の会社。
稚魚から育て3歳までは、教室を改装して作られた生け簀で育てられる。
「1992年に日本の民間企業として初めてチョウザメの人工ふ化に成功したフジキンさんがつくばで研究所をもっていました。養殖の技術やキャビアを含む加工までもフジキンさんがしっかり指導してくれるという話を聞き、さらに、養殖施設を作ることは建設会社である我々の本職で、導入コストを抑えられる。そんな見込みがあったこともあり始める決心をしました」と時田さん(右)。
3歳以上は、屋外プールを改装して作った大型の生け簀に移す。オスとメスが判別できるまでは、同じ区画で飼育され、判別ができたらオスとメスに分けて飼育される。

チョウザメ肉の活用についてもさまざまな取り組みをしています。

ひとつは淡水魚特有の土の臭いを軽減させるための水の研究です。それまで、河内町特有のミネラル分を含む地下塩水を使ってきたのに加えて、古代亜炭やテラヘルツ鉱石を使った水を飼育用水に使うことで、チョウザメの身への効果を観察しています。

また、チョウザメの稚魚を育てるために、生け簀を設置していた校舎の2階に加工場を新設しました。これによってチョウザメを加工する際の安全性が向上したほか、身を使った加工品の開発が可能になりました。自社でから揚げを開発したほか、チョウザメの身を使ったソーセージを作りたいという企業向けに、加工した身を卸しているといいます。

もちろん飲食店向けにチョウザメ肉の卸もしています。津本式の神経締めの技術も習得したことで身の質も向上したと感じています。チョウザメならではの身の質や香りを、シェフのみなさんに体験していただき、興味をもっていただきたいですね

「アクアポニックス※」の技術で栽培されたトマトを食べる豊永さん。
※「アクアポニックス」とは、チョウザメの養殖で使われて汚れた水をろ過槽でろ過する際に、特殊な技術によってチョウザメの糞尿から液肥をつくり、それを使った水耕栽培で野菜を育てるシステム。野菜が液肥を栄養として吸い上げると水は浄化され、この水をふたたびチョウザメの水槽に戻す資源循環モデルのことです。チョウザメは稚魚から卵をもつのに7年以上かかります。その間、稚魚から育てたチョウザメの卵で作ったキャビアによる収入はゼロ。卵をもたないオスの肉の販売や、アクアポニックスの技術で栽培した野菜を販売して収入を得るなどしながら事業を続けてきました。
トキタフィッシュカンパニーで育てられたチョウザメの肉は協力店の一つ「創作イタリアン&カフェ Talpa(タルパ)」で食べることができる。取材した日は、チョウザメ肉のローストにラタトゥイユ風のトマト煮込みをソースにした仕立てで提供された。同行したセキネさんと豊永さんは「独特の臭みがあると思っていたけど、調理することで気にならなくなりますね」と感想を語った。

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牛・豚・鶏・羊に続く“第5の肉”として期待されるダチョウや、食用としての流通が確立されれば日本初になる養殖ヤマドリ、品質向上が著しいチョウザメと味だけでなく社会性の面でも注目が集まる3つの食材を紹介しました。

育て方や流通などが確立していないだけでなく、まだまだ決まった調理法もない食材ですが、かえって料理人のこれまでの技術や知識、そして自由な感性でいかようにでも”料理”できる食材であるといえます。

まだ誰も使いこなせていない食材をいち早く取り入れ、あなただけのおいしいメニューを生みだすことができれば、他店にはないオリジナリティの高い看板メニューとして注目を集めるはずです。

まずは一度食材を扱って、味わってみることから始めてみてください!

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Supported by 茨城食彩提案会開催事業
Direction by Megumi Fujita
Photos by Naoto Sawada
Text by Ichiro Erokumae

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